haiirosan's diary

散文とか

トレイラーハウスと神が抱くリキュール

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曇天の線路を赤い十字架が刻む

公園のトレイラーハウスと神が抱くC4

善良なる人々を、葡萄酒漬けの神を爆死に導くのはいつも、

――茜色の朝、コーヒーに混入するリキュール、カンボジアで聴いたラジオを思いだすと6歳の少年が呟けば、向日葵色のランドセルに曼珠沙華が咲き誇る。

通勤通学鞄靴が蘇鉄色に染まれば私たちの雨はやむのか?と長靴を履いていない猫に問いかけたけれど、彼は透明な雷魚を求めて行方不明になっていた。

夕暮れも影絵と化す画家の悲観

夕焼けに炭化する蒼白の終空

また曇天が世界にモザイクを掛ける

単眼の太陽、紫色の静脈管が抽象的に彼を内出血せしめた時、マリア像は慈悲の涙を流すのか、彼女は心臓に待ち針を突き刺すことをやめるのだろうか。

郵便箱に仕組まれたユナボマー肖像画

君の指先も君のマニキュアも霧雨に染まれば元通りだねと彼が笑ったような気がしたから、境界線上の乳母車は心臓発作を起こさない。

輪廻する速達、微かに香る焦熱の匂いとオーデコロン

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ブランデー・ボトルが砕けてターコイズネイルは哂う

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雑踏に打擲されたブランデー・ボトル。

明滅する世界の構成物質に対して異議を唱える者は無く、ただ飛び去ってゆくカラスの群れを傍観していた。

紅色の空から桔梗の心臓が降り注ぐ。私たちは五月雨の記憶を溶かしてしまったけれど、アイスボックスに閉ざされた奇形は浅草十二階にて、今も翠雨のパレードを繰り返しているような。

未だに0:00の空は吐血を抑えられない。彼は青い衆愚と無感情の時の中で独りぼっちだから、そう呟いたブランデーの残り香もまた――

「林檎と桜桃の轢死体からあの琥珀が生まれる」

スピリタスの街頭スクリーンが昏迷の果てと燃え尽きた燕尾服の標本にエミールの40%,750mlにマッチ売りの少女と赤ずきんの少女の混濁に、あまりに分解されたチョコレートサンデーに紛れ込む檸檬の不発弾。

歪んで視える校庭、それとも交差点。冷たい視線、冷たいコードが私の切れそうな一弦を押しつける。もう飛べないテレキャスターの沈黙が透明な通続音として日々を繰り返す。

死んだようなミリンダのカールコードを断線したのは多分この世界の罪だから、ターコイズネイルを愛撫する私は赦されると書き残したブランチタイム。その背後でブランデー漬けの苺が私の首筋にダガーナイフをあてていたことにも気づかず、永遠のクーラーだけが黙示録を詠唱していた。

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ブルーキュラソーの水槽

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死んだような蒼が世界を溺死させ、魚の祭が終焉を迎える時、私は水槽に注がれるブルーキュラソーをずっと見ていた。

「夏に溶ける塩素剤に罪は無い」と『審判』は冒頭に書き記していたけれど、私が注文した200$は未だにリキュールのままだ。

カミュの言い訳に絶望的になった少女が私に向かって「  」と叫ぶ。

然し、テロップの行方、クラップを求めるスクラップ・ヒップホップにスクラッチもレコードも Leonard Cohenのライナー・ノーツにうんざりしたポークビーンズにビーガンの怒りとアラビアータ・トスカーナシチリアン対ベジタリアンの反目と慟哭に俺たちは30歳で此の世を去っていった、濁りの無い一滴の為にLilac WineとHallelujahを。

祈りの旋律が0%により無情に無音になった時、水族館のセーラー服の群れが亡霊と化す。

彼女らが1を――する為に人々はどうして撒餌を拒むのか、ビルからの投身への希望を捨て去れない嘆きの天使、偽装の熱帯林、立ち込める火薬と猟奇殺人の甘い甘い香り。

あまりにも空虚な半透明、海月の夜、LEDの狂気、水の中の葬列。

Reversal Process,反転する平行世界の写真を彼女達はどうしても撮りたいから、僕を13階段から突き落とすことに何の躊躇いもなかったと、東京拘置所のAは訴えたけれど、じゃあ私に科せられた〈淫らな死〉への宿命と序曲の休符は永遠なのかと問い詰められれば、彼らは4人で5つのスイッチを押すことを拒むはずさ。そう、私の唇が渇ききって、土曜日の讃美歌が老衰で積乱雲と化したことにあの鮮やかなスカートの記憶すら、もう色褪せたのだから――

 

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私の蒼いラストワルツに誰も、

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熱病に蒼が狂い始める。

6月の終末に、僕らは未だにドライアイスを抱えたままで、逆さまの蝶が形而上のラストワルツを捕食したとしても、無音の舞台が暗転することはない。

振り向けば君は忘却の彼方で、紅色の葵をその手に握りしめていた気がしたけれど、蜃気楼の果てには絶望しかないと囁くのは私なのか君なのか。

何処かで鳥が咽び泣く。33の首が曝されても尚、この世界は青さに浸っている。クーラーの黙示録、バームクーヘンが着る青1号、アイスクリームパーラーに遺された選択肢はチョコレートミントだけだと。

解体された人造模型の瞳は透き通って、ビーカーで揺らぐ青い炎がセーラー服の紺を焼死体へと変換する。

「誰にも視えない来客がいる!」と私はいつか叫んだけれど、「多分いつか来るビジョン」と手を繋いだ三面記事に描かれたシクラメンの油彩画の心理的瑕疵に憑かれていた。

誰が描いたのかも不詳なその花の死んだ口元。もう何も無いこの部屋に花束を捧げるのは、青の終わりを宣告する嘘の無い赫だと誰かが云って、私の濁りきった眼に刹那の光が宿った気がした。

雨酔いのドールハウスと鴎の窒息

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雨の痕がマキロンみたいにアスファルトを濡らしていた。
針葉樹に隠されし罠を私は忘れていたけれど、ロゼワインがまだ桃色のまま笑っていたから、乾ききったパンチェッタと蜜柑飴を文月の七日酔いの為に。
かの王政は私の罪を嘲ることを赦さなかった。
御輿に積まれた猿の両目をえぐりだすべく、僕らは100人の対価を支払う。絶望に捧ぐ讃美歌を一小節奏でる度に、聴衆は首をめくり首をめぐり首をさぐり、ドールハウスの空白、肢体の告白。
然し、僕の弾く6弦を弾劾することは容易いと、彼も彼女も囁いたが、彼らが僕に口紅を渡すことはなかったし、七限目の道徳の授業に机上の32個の花瓶が変死体と化すことは、新国立美術館3Fの蝶も百合の裏切りに気付くまいと傍観者ではいられなかったのだろう。

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ストッキング揺れる日曜日の午後、海岸線を歩く少女を撫でるサイレンの悲鳴に、僕だけが沈黙を守っていた。
茜色の飛行機雲、鴎の窒息、この世界は息をすることすら辛いと叫び、27歳の彼は散弾銃を手に取った。空砲のトランペットに無表情なミッキーマウス、ダニエルの奏でる無邪気なピアノが銀座の地下一階に木霊した時、屋上の二人が終わりを迎える音を鮮やかに掻き消して、安楽椅子に沈む風船は永遠のパイロットとなり、その名を名も無き少女の墓碑に捧げる。

Cigarette in your bed

朝霧のブランケットに包まれて、紫陽花が紅く火照る

彼方のライ麦畑も渇ききって更新される6月の永遠

つかまえたのはサリンジャーの理由なき38~78頁

『キャスターで浄化されし胡蝶蘭と摩天楼』

アスファルトのベッド、或いはベッドがアスファルト

マッチ棒の焼身自殺が「   」を訴えれば

名前を忘れた少女の吐息が残酷に棄却する

誰が名前を忘れたのか?

番号で告げる着飾ったダブルベッド共か

それとも、多分冷たい眼のままの僕だ

嗚嗚、太陽が眩しい

群衆のローストに涎が止まらない蒼白の空

太陽が眩しいから皆カーテンを閉ざしたまま

日傘をさす女ばかりが立ち尽くす氷塊の街でしゃがみこんでいる私は17歳で嘆くことを忘却してしまった

11階以降も追い込まれる地獄の季節と剥がされた黒猫

ねえ、11階からコンバースと植木鉢を投げる僕を凝視しないで!

――彼女の澄んだ瞳はスカートの深淵に隠されたままだというのに、

叫ぶ私の肩にそっと手を載せる

顔の無い恋人たち友人たち家族たち

彼らに煙草を差し出すけれど、彼らは注射器と感情を求め続けていた

震、え

る手で、凍てついた裸足のままで

皿上の氷砂糖が熔けるまでのショーウィンドウ

マリアのくちづけにDrink Coldの選択はなく

無言の製氷機が告げる夜の色彩は……

黒こげの白衣の裸には誰もが無関心

透明な雨の夢現、コールタールで洗髪する子供たち

フィルター越しの救済或いは死を求めるのは

プラスチック・ライターに犯された毛布を求めるのは

ウィンカーのでないセダンだけだって

茜色のマリアのダイイング・メッセージが告げる

30のモーテルの鍵を探す道化師に31号室への道標は見つかるのか

30の死蝋に火を放てば、31の狂炎に狼煙はあがるのか

――紫煙が無慈悲な青空を愛撫して、水無月は静かに揺れ始めた

 

 

06080610

絶望の豚が火焔に呑まれる

カストリの酔海が紫陽花から降り注ぐけれど

僕らが6月を忘却することへの示談にはならない

震えが止まらない右手、電気羊のバタフライ

夕暮れに泳ぐ彼女は

溶けることのない塩素剤を求めていた

電話線で首を吊る想像

翳されたカッターナイフが刃毀れするまでの白昼夢

ランタンに映る変死体を肯定せよ、と

デスマスクの無い絵画に眼球奇譚を書く悦び

音楽室の七限目、揃えられた白い上履き

黒猫の足音止んで

鳴り止まない家庭科室のミシンの音色に

揺らぐチョークはキャンディへと変換される

「私の救いは水割りなの」

そう云って21歳の彼女は死んだ

淡い夕景に沈むように、朝靄が消えてゆくように

……ジェームズ・アンソール「仮面に囲まれた自画像」

ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

彼らの描く救いのない世界

キャンバスを糾弾する丸焦げの豚ども

油彩に火を放つ15歳の碧い瞳は澄み切ったままで……

砕け散ったワイングラス

床に散らばる記憶と皐月

明日の無い太陽が笑みを零す時

僕らは暗いくらい影をずっと視ていた