婉曲する剃刀が、夕暮れの肌を切り裂く。 幽かな翡翠色の希望すら、 麻酔もなく轢断されて__ 304号室に遺された、空白の浴槽に溺れた脾臓。 無表情に突き刺さる画鋲が そっと笑みを浮かべた時、 遺影から拭い去れない血が流れだす。 氷結した彼岸花の断末…
うつらうつらと死の午睡 ゆらりゆらトうたたね ヲ …… 解体された毛布 丸まったままのブランケット 横たわるセダン、揺らめくままの蜃気楼 薔薇色の黄昏に焦土の嘆き――――鳴らない目覚まし時計、屍の敗血。暗幕に閉ざされた部屋、暗渠に浸されたベッドには、 …
夏の造花が咲かない花火を想い、嗤う――鮮明に映された網膜のオアシス 不可視の砂塵に喉を引き裂かれ、 街はアルファベットの影に怯え。 跫音、跫音が足跡も無く忍び寄ル__ 心臓零れ落ちる旋律、 施錠の無い出血に、暗いドアが緩やかに開かれた。 転がる空…
ライムミント滲む夕刻 光の無い街灯は酩酊を惨殺し 暗澹たる点滅を繰り返す。 小豆色の被膜に甘味料を加えんとした、かつての「地図に無い王国」は、堕落のリキュールに溺れ、徐々に消えゆく薄荷色を傍観しているだけだった。 浴槽に沈む街頭スクリーン 透き通…
暗濘の彼方、 流砂のような火炎が、全てを焼き尽くしていた。 傍観或いは感傷 (それら)に浸る誰もが 既に火葬場の暗闇深くに沈められ__ 刹那に映る炭化した彼らは 暗幕の小さな悲劇にすらなれなかった。 視えない鬼が手招きする黄泉比良坂。 言葉も無く …
消失と忘却を輪廻する暁。 街には境界線を永延と描く黄泉路が、渇きをなくした夏を嘲笑している。 点滅を放棄した色彩たちは熱病に犯され、自らの心臓を露呈したまま、茫漠とそこに立ち尽くしていた。 夕刻に陰翳と華やかに 剥離した白磁 清爽の舞台から飛び…
琥珀の季節を描くのは、最期の空中戦を求めて彷徨う巡礼者だった。 あまりにも酸素に充ちた群青色の海 息を止めて ライムミント掠めて―― ――幽かな冷涼と共に 残酷な夏は記憶を喪ってしまう。 翠緑の平行世界に映る亡霊 跫音の無い少女は 自らが翳すダガーナ…
誰かの脾臓が曇天に浮游して、機内食は瞬く間に菜食主義者に心理的致死をもたらした。 分解される倫理に慈悲はなく、ただ見えない乱気流が白骨化してゆく彼らを抱擁するだけ。 輪廻の運命、存在しない捜索隊と祈り 網膜に暗幕を降ろす、藍色の夕刻。 石化面…
海月のような太陽の揺らぎ 麻痺した空は目眩のままに夢魔を貪り―― 未だ訪れぬ澄んだ蒼の憧憬、 水面に沈む暁が全てを焼き尽くす時、 焼死体の眠りは何処までも凍えに浸されていた。 白昼の夢の意識は、海草のように揺らぐ電線みたいで、暗い影が夕濁した深海…
黄昏色の陰翳から、色彩と人々が消え去った。 平行する夕暮れ時に、逆さまに映る少女たちの鬱血__ 或いは、 (昇ることの無いエスカレーター)を求めて彷徨う少年たちの影絵を塗り潰してしまうのは―― ゆるやかな波紋が水鏡の緑歌を瓦解させる。 灰燼と化し…
終末の交錯、蜃気楼のような痕跡は夕暮レに拭いがたい傷を刻んだ。 止まらない血 揺らぐ断片 無慈悲の警報 悲嘆に暮れる黄昏の匿名 炎上するのは仮想空間ではなく 君が死体のままの世界だから―― 翠緑に浸された死体。 無言に添加された果糖、偽装に塗りたく…
「世界の果ての果てまで硝子で出来ている」(彼)が嘯いた地平線の彼方には氷結した蜃気楼が拡がって、淫らな猟奇殺人の色彩すら、何処か柔らかな揺らめきを湛えていた。 ――終わらない夏の白昼夢を映しだすガラスは、次第に焦熱を帯びて、凡てを焼き尽くしてし…
カーブミラーに映された「逃れることのできない死」は、夕暮の終わりと共にリセットされるはずだった。道端に転がる凝固した血痕、 融解した肉塊、 塩の眼と海に傷口を、逆さまの祈りを、正体を喪っても尚ずっと__ 路地裏の暗緑・透明な水 オフィーリアの叫…
地獄のグラデーションと摂氏__に焼かれ、ペリエの翡翠は緩やかに変換されてしまった。 情熱という名の虚無に永遠と墜ちる夢、 徐々に錆びゆく階段の 13段目(だけ)が見つからずに這い回るのは―― ――奇数の蜜柑に封入された青酸カリが滲みだし、5月は穏やか…
輪廻の夕刻は静かに反転し始め、少女の酸素不足は呪詛と共に火を放つ。 より深い赤に切り裂かれた睡りは、死者と化しても尚救いがたく浅く―― 橋の彼方、未だに終わることの無い夕景に、彼は永延の(叫び)を止めることはなかった。 明滅するサイレンの雨、光…
仄紅い水底には、秋の牢獄から脱獄した影が彷徨っていて、季節は亡骸と化した。 血塗れの刃先を寒風に晒したまま―― みえない朱を嘲笑うことすら、誰にも止められなく 「咳ヲ縊スルルハトホキ春ノユメ」 白痴の花が咲き踊り 薙刀を解体する少女の眼に蟻地獄宿る…
紫陽花溶けた朝焼けに、少年の爪先は幽かな亡霊と怨嗟に剥がされてしまった。 だが、遠い警笛を糾弾する185694の使い魔の醜き悪意に、胃からの出血止まぬ少女が手に取ったレミントン・ショットガン。 3番目のトイレに投げ込まれたヒ素の色で観音開きの入口を…
私だけが取り残された砂漠の果て。 炭化した夕日のシャーベット渇いて、蛇が高速道路を這い回ることをオアシス・アイスの色素が描く。 意味を成さない言葉の配列に、地獄の化学式はそれでも毒を織るために、 ――鷺は風切り羽すら亡くしたまま 歩みをやめた葬…
チョークで象る死の証明。 彼方で轟く雷鳴を黙殺するかのように、 無言の炎が彼女のドレスのような懺悔を焼き尽くすかに見えた。 灰色の壁から一歩を踏みだした、 その笑顔は酷く歪んだままで 錆びついたナイフが浄化されてしまう音だけが 青い世界に鳴り響…
雨音が硝子を炭化させる。 変拍子の化学式が揺らぐ時、 イロは血を纏い水は意識を喪った。 鴎はいつも死体だけを赦して、 いつかの冬の花火も、 黄昏の電線から飛び立つ鴉も、 夕陽のような記憶と共に薄れてゆく。 薄氷、水中花咲き乱れ、水槽は不審死が彷徨…
落堕の春に、全ては呼吸器を放棄した。 彷徨う怨嗟、文字列が誘発する偏頭痛。 唯、眼前の終幕と蒼に、断線したイヤホンだけが 揺れて、揺れて、揺れ__ 永遠と繰り返されるハーシュノイズ、 鳥たちがサスペンデッド・ゲームに手を振ったとき、あまりにも穏…
返り血の雨が渇ききった砂漠を彩る。 子供の国、届かない磔、釘の造花。 破傷風とフォークダンスを踊れば、幼児の切りたての首でキャッチボールを繰り返す父子に警告するのは、いつも死んだ眼をした私生児だと。 そうやって永遠の笑いが止まないうちに、存在…
秋の入口を忘れぬまま、いつかの縊死対がワルツを躍る。 茜色の季節、或いは水面の季節。 悴む手に熱と悪寒を帯びて、心肺が零れ落ちて街は紅葉跡のように色づく。 誰にも踏み荒らされない色彩 誰もいない車道をそっと撫でる風音 轢断されたショートケーキか…
消えゆく硝煙反応にクリームソーダほくそ笑み、密やかな街頭スクリーンに踊るシルエットは、唯々消えゆく為の淑やかさだった。 遠い町、遠く、夢、幽かにカッターナイフ揺れて。 オレンジジュースの苦々しい笑みと、水鏡に揺れるゼリーに甘味料を混入し忘れ…
手を伸ばせば、その先にあるのはいつも鉄条網だった。滲む血の行方すら渇ききって、いつか降る雨に救いを求めても、穏やかに浸食する砂塵の音色だけが永延と鳴り響いて。 錆びた剃刀空1989年、茹だるような快晴と青雲の或る日、一匙のバニラが世界に零され、…
誰かの絵画が磔にされていた。 赤い血を吐きだす雪景色はもう夏を忘れたまま、最期のグラスワインを喪失してしまう。 夢現な物語は、渇ききったフィルターは、いつも心に清潔なバタフライ・ナイフを突き刺す。 もう零す血すら無くても、深々と。 浮き沈みを…
かつて「空白であった」はずの棺桶に落とされた、造花の花束。 這い出る黒揚羽、逢魔の夕光に照らされても尚、彼は畳の上で冷気を湛えたまま。 悲劇の始まりはあまりにも唐突だ 悲劇の終わりはあまりにも鮮やかで 私の眼に刻まれた、ワタシの靴が赤く染まって…
硝子細工の夕暮れは蒼の操り人形だ 教会のステンドグラスが朗らかに嘯くけれど 彼女の色彩は未だに死んだままだから―― 空白のチケット 虚ろな番号を君は言い当てることが? 4730821569 ハーシュノイズ モノクロ・ブラウン管越しに視た観覧席には、たしかに1…
少女の戦場を夕陽だけが照らす滴る血と骨が凱歌を嘯き錆びた手錠が自らを自らでいる為に自ずから偶数であろうとする断線は幸福である断絶は幸福である断崖から身を投げる君はいつも、全てが断ち切れた時幽かな光と止血剤がそっと射し込む 心臓と敗血を零しな…
欠席に浸された教室、ノートに突き立てられたナイフからは幽かに血が滲み、揺らめく影が握り締めた鉛筆は窒息死として処理された。 「記憶」 記憶は少しずつ薄れて、暗い夢が現実に肉迫する。 網膜と鼓膜を揺らす影のトレモロ 「バニラのドレスは脾臓を動脈血を…