haiirosan's diary

散文とか

SLOW SWALLOW 2

――自動設定の目覚まし時計が鳴り響く。カレンダーでは 2000年8月3日、私にとっては2016年1月1日の朝が始まった。埃っぽいカーテンを開き、閉め切った窓を開ける。アパートの前の歩道には年始早々にも関わらず、クールビズのサラリーマンの群れが闊歩し、夏用の制服やジャージを身に纏い自転車を飛ばす中高生が群れている。目と鼻の先にあるホームセンターやドラッグストアでの開店作業や搬入作業に追われる音、近所の公園で行われている、半袖の餓鬼どものラジオ体操の音や掛け声が耳障りだ。年始ということでぼんやりとしたアタマ、セーターの上にジャンパーの私とは全く異なる彼らの服装や行動は、大げさに言えば、私以外の人類がまるで未知の細菌に冒され、人間のようで人間ではない別種の生物に変異してしまったように見える。私のいる、このアパートの305号室が「正常」な人類の最後の砦であるかのような……。  

 とにかく、私にとっては2016年1月1日なのだから、この砦から出て、初詣に行かなければならない。昨日は他人の視線や嘲笑に晒されて、結局マリファナタバコや度数80%のビールも調達出来なかったからコンビニににも行かなくてはならない。何かのシミがついたスエットをジーパンに履き替え、外界に足を踏み出す。2016年、すでに大麻は合法となっており、より快適に快楽や酩酊を得ることによって憂鬱やストレスから逃れる為の異様に度数の高いビールや瓶入りカクテルも販売され、リーマンも学生も主婦も多かれ少なかれ、60sサイケデリックフラワートラベリンヒッピーでハッピーなファッキンLOVE&PEACEヘヴンな気概で生きていたはずだ。ところが、道行く人々の顔には憂鬱や倦怠しか感じられず、昨日もそうだったが、私を好奇の目で見たり、嘲笑をする人々も何処か虚ろであり冷めきっていた。自分には関係ない、キチガイだ、真夏に真冬の服を着込んでいる奴wなんて面白いから2ちゃんねるに上げよう、酷暑の某紛争地域から来た環境不適合者、ただの変態、倒錯者、かまってちゃん……棒読みの心の声が1月の寒さをより厳しくする。太陽の神よ、哀れな彼らの心の氷を溶かす溶熱を、彼らの心を蝕む病巣を切除する刃を。届かぬ祈りを捧げつつ、私はコンビニに足を踏み入れた。

「いらっしゃいませー」活気のない声と共に、過剰に効いたクーラーと宣伝のBGMが私を迎え入れる。店内には成人雑誌を読む中年、ゴキブリのように走り回る幼児、駄菓子コーナーの前で若干挙動不審な中学生、そして週刊誌を一心不乱に読み耽る男がいた。私は酒のコーナーに行き、度数80%のビール・「ガヲヴェツクュノイリータウヴォーゲル97」を探した。だが、どのビールもアルコール度は5%、あってもせいぜい6%が関の山だ。辟易した私はマリファナタバコを探そうと、レジ裏にある煙草棚を覗いた。だが、その手の商品では最もポピュラーな銘柄「Eatin Dust」すらある気配が無かった。私は在庫があるか聞こうと、暇そうにレジに立つ店員に声をかけた(続く)