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haiirosan's diary

散文とか

Alondra Sauvignon Blane

「ズッ友だにょズッ友ダにょズットモだにょズットモダニョ……」

――某U駅近郊にある美術館。蒼い日曜日、脳が爛れた午後二時。民放でも盛んに採り上げられたこともあり、目当ての展示は炎天下の白昼夢の中でも90分待ちという惨禍に見舞われていた。滴る脂汗と血混じりの涎、カランコロンと落ちるペットボトルやアルミ缶の亡骸の群れ。アスファルトに零れ落ちた三ツ矢サイダーとAlondra Sauvignon Blaneに群がる赫蟻と白痴、熱気を冷却する幼子の啼き声と蝉の奏でるミニマル・ノイズ・ミュージック。そんな真夏の悪夢に取り込まれそうになる私の目の前に並ぶ、二人の女子。

 赤と黒、薄汚れたチェス盤のようなフロア。爽やかな汗がほんのりと滲む白いワンピース、お揃いの革製サンダルと金髪のボブヘアーを纏った初々しい二人。他愛もない、所謂「女子トーク」というべきか、何気ない会話が何となく途切れる度にしきりに互いの腰や柔らかな手、そして百合のような唇を発作を起こした獣のように弄りあっている。彼女達が手と唇を交える度に宙に舞う、頬を染めた二人の吐息はまるで12月の凍てついた路上の光景ように、ほの淡く茹っていた。

「ズッ友だにょズッ友ダにょズットモだにょズットモダニョ……」

 メルヘンチック、アクアブルーの金属製ブレスレットを細い手首に付けた、片割れの女子がポツリポツリと、そう嘯いた。少しばかりはにかんだ口元、メールやけーじばんでは頻繁に使う零世代の決まり文句、そして光のない死んだ魚のような眼。

 サブカルチック、もう一人の黒縁眼鏡の女子はその言葉を聞き、唯哀しげな笑みを浮かべていた。そして彼女もまた、私のようなアルコール依存症患者の如く澱みきった瞳から射す、得も云えない視線を片割れの少女に向けていた。

 刹那、若さ、狂気、それらを孕んだ彼女達はこれから何処へ向かうのだろう。無駄に並び、たかだか1時間かそこらで観終わってしまう、名ばかりのこの展示は、私の目の前の「カップル」には前菜でしかないのであろう。

――メインディッシュのブルーバード、クラスCの生徒が30分程前に自殺した鉄塔の下で二人が刻む死体とハミングバード、白い葬列・夕景の憧憬、エバーグリーン・田園の幻影にて二人が飲むレモネード――

 膨らみゆく私の想像の中で、彼女達は群衆の波にさらりと埋もれていった。「もう疲れたね」「うん」「ここは窮屈で苦しいね、もう消えちゃおうか」「うん」「……ずっと一緒だからね」「……」深海の囁き、冷気をほんのりと湛えた瑞々しい青の声色、それすら儚く夢中夢のように消えてゆく二人の靴ずれたサンダルは綺麗に揃えられた状態で深い深い廃トンネル前に落ちているのか或いは――

――妄想、喧騒、フラッシュバックするワタシの夢はベッドの下に転がるAlondra Sauvignon Blaneの残り香が漂う、小さな世界の埃の城に埋もれた写真アルバムの中に閉ざされてしまっている。決して安い関係では無かった二人、だが、あの日の安い言葉は容易く捕えられ、そして安ワインのプラスチック・ボトルの中に無慈悲に封じ込められたのだった。