haiirosan's diary

散文とか

ライムミントの午前

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 午前十時、桃色の毛布の海の中、私は第七官界を彷徨しながら、私は林檎パイを一切れ、また一切れと咀嚼している。それは金曜日のバカルディ・モヒートの魅せる、淡い緑色のほろ苦い夢よりも酷く現実的であり、如何にしても心肺にへばりつく氷砂糖や林檎のシロップ漬けの甘味が、深い深い闇の中で厭に喚き散らす50m先のTen-Pin bowlingを、ジェフリーの猟奇殺人による惨殺死体と化したい欲求に駆られる。

 そう、私を狂わせるような狂わせた夏の朝はどうしても嗚呼彼女のシャツから覗く大海原に面した病院の7F屋上純白のシーツが洗われては干され洗われては干されてゆく碧を纏った潮風によってそれらが不規則にはためく様が僕には哀しい程美しくそれは君の瞳が何処か遠くに感じてしまうような不感症の朝に例えば左の掌をアボカドのへばり付いたDagger Knifeで切り裂いてみてもあの日のようにechoで十代の温い焼き鏝をしても止むことのない!透明な乙類或いはウォッカの海に浸った指先と眼の震えは誰もかれもが虚ろに蠢くディズニーランドの改札でも躁。

 バレリーナのように、白衣の舞姫が踊る。アスファルト、映る影に車椅子の十三歳の少女はまるで恋心を抱いたかのように、天使を見つめている。それは何処か夢幻的であり肉感的なライム色の午前。然し僕には君の影や熱視線などよりも、冷たく無機質でそ、れでいながら陰鬱な優美さを湛え揺れる幾つものシーツの揺らめきと、十月の風に乗って流れる石灰のような漂白剤の残り香に惹かれるから、僕から誰もが離れてゆき、いつの間にか腐乱死体のような面持ちで、この残酷な世界の外れのサナトリウムで白昼夢を視ているのだ。私は今にも変死体になって、あの地下に拡がる海の様に広い広い霊安室に、暖かなシーツと共に閉ざされてしまいたい。

 笑うことを「忘れようとした」天使と、笑う事を「忘れた」可憐な少女。海岸線に咲き乱れる黒百合と白ユリが枯れ果てる頃にあの娘は無慈悲な海面にへばり付くだろうと、窓際のライムグリーンのビール瓶が囁く。塩で錆びた車椅子、無慈悲に飛ばされる麦わら帽子。だが、彼がどうなるか彼女がどうなるか、僕には知る由も無いし知ったところでもう此処から戻ることは出来ない。僕にはもう全ての事物の興味関心が薄れているとは、通信簿に書かれた十代のフィクションな記憶は水曜日のゴミ収集車が綺麗に片づけてしまったと老爺が云っていた。

 日曜日、ライムミントの午前、気づけば雨音と曇天が心も湿らせていて、沈むような感情の私は唯唯、Sweet Basilの艶めかしい曲線とライムグリーンの色彩を虚ろに眺めている。