haiirosan's diary

散文とか

レトロしてゐノ有明エレジー

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 三月、午前七時32分。何となく春雷に打たれて考えていたことは、私が21th century schizoid manではないかという根本的であり曖昧な疑問であった。レコードから流れる山口百恵、或いは極東花嫁の嘆きの青春。

 群青色の空を這い回る入道雲、透き通った硝子の内側で常に私は傍観者であったはずのこの世界。しかし、inside outする刹那に視える・視えた季節のタイムラプスは間違いなく混沌と躁鬱を齎すものであり、それは何故か5歳の頃、新宿バスターミナルで白鶴〇と焦げたチキンライスを三十秒で煽り、乗り口を昇降する前にもよおすAの父親の揺れる革靴の描写が31インチのスクリーンに映し出されていたのであった。

 例えばプラスチックに収められた溶けるようなプリンと少女のスカート。私は銀製の艶めかしいスプーンで慎重に、それでいて大胆に捲ろうと腐心するのだが、其処の底に貯まった彼或いは彼女の情念は中々に救いあげることが出来ない。震えるのは純粋な卵色と蒼白の指先だけ。

 そう、このままでは彼らが息を続けている可能性のある72時間以内に間に合わない!HELL met&割烹着、Heckler&Kochを携えたジョン・マクレーン宜しく現場で喚く禿げ気味の彼を横目に、私はスプーンに乗るほんの数mmの繊細さに心を奪われる。綺麗なテーブル、綺麗なピアノ、可憐な造花、私はあの頃の記憶を、旧市街にある荒廃した『ダンスダンス・December』にて、静かに想い出している。

――彼が叫び声をあげ、灰色の街を疾走した夏の或る日、私は何処に居たのだろうか。無慈悲に日焼けしたプールサイドを歩く度に、大判文字で刻まれた鮮烈であり下劣な言葉や見出しの羅列から、「彼」を想像する。一歩、二歩、三歩。草臥れたスニーカーで穢れにまみれたアスファルトを踏みしめる度に増してゆく彼の全てに対する憎しみは、然し想像の範囲内を超越している。よく晴れた朝、汗ばむ手を拭いて、それでも深呼吸と動機の止まらぬ彼、無差別であり完璧なる断絶を目指す君の眼には人やビルディングがどのように映ったのか……。ああ、だがそれは新市街で見かけた食堂バラックの看板に刻まれた『有明』という、何かしらの料理名だと思われるそれに、私の意識は奪われてしまった。道端に転がるテディーベアーの祈り、Ms.リカの捥げた首と右腕、SUPERCARの破滅。それら全ての事象が「水曜日のネコ」の飛沫と共に消えてゆくように、私の午後の妄想は空虚と化してゆく。