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haiirosan's diary

散文とか

浮遊する二月、ヘンゼルとグレーテルの幻

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https://www.youtube.com/watch?v=B3MVQl9KdXI

 凍てつく世界の果て、焚火も裸足で踊り狂うことをやめた二月。私は確かに14の紅白唐傘が建ち並ぶ銀座の歩行者天国で、「彼ら」の幻を視たのであった。

 杖をつく老夫婦が運悪く、とてもとても不運にも暴漢の凶刃に斃れ伏すPM2:00。灰色に染まった手袋が無慈悲に叩き割る明治のモダンちょこれいと、傍観者とHoegaarden Whiteのオレンジピールの酸味、可憐な少女の柔らかな唇のブランデーは効き過ぎ。そう、そんな私の血濡れたヴァレンタインは暴力的でありながらも穏やかであるような。

 見上げれば、空は何時になく緑の薄荷色に染まっていて、所々に散見される千切れ雲に見惚れていた様な。乾いた風、渇いた午睡、彼女達のたおやかな右手に持つしとやかな百合は、惨めに枯れてしまっていた。枯れ果てる季節を憐れむ神父とSisterは昼食として手に入れたヴァニラ・アイスクリームが完璧な庭で溶けきるまで、萎れた百合を凝視し続けていた。

 迫害された殉教者に由来する記念日、しかしそんな日であっても、裏路地ではチカーノ、チャイニーズ、ロシアンが終わりのないポーカーを繰り返すが如く、硝煙と散弾、赤黒い動脈血と肉片を撒き散らしていた。

 その赤と黒の絵画に筆先で跳ね回るヘンゼルとグレーテル。彼らの正体は誰一人として知ることなく、そういえば密輸したVHSで、暗い暗い洞窟の中、赤ワインの海に浮かぶ、白い肌の美しい双子が抱き合う場面が鮮烈だったと、青酸カリ入りのミートローフを食し、眼を黄疸させて狂死していった肥満体の男が云っていたのさ。

 嗚呼私を溶かすのは、クッキーハウス、アイシングの屋根に満たされた、甘い甘い砂糖菓子の家でも無く、コットンキャンディーで造られた柔らかな絨毯でも無い。それは嘗てのルネサンスの如き、途方も無く無軌道な芸術と殺戮に対する熱情か、それとも十代の時は微かに残っていた恋愛への情熱か。何れにしろ団地妻や鴉が乱れる昼下がり。鋭利な刃物で切り裂かれた瑞々しく新鮮な柘榴と苺の籠が供されるのとは裏腹に、誰もかれもが蜜と砂糖を腐らせ、或いはカーテンの向うで脊髄と手首を切り刻もうとしているような。

 冬のアイスクリーム、爽やかな霜と蒼い冷気を纏ったそれすら、白昼の眩い太陽の下では瞬く間に液状化してしまうという現実の虚しさ。アスファルトにへばり付く青緑のミントクリーム。蟻の大群が群れて往くその瞬く間に、BerlinのRavenである「君」は彼女或いは彼の為に幾重にも幾重にも重ねた言葉のDaggerで心臓の血管と断線したストッキングを射ぬこうと画策する。

 だが伸ばす手は届くこと無く、まるで天使の羽根の様な綿雲に曖昧に触れることしか出来ず、陰鬱に沈む彼の心と肉体は、どうやら全てを手放し深い深い闇と海中へ沈んでゆくことを選んでしまったようだ。