haiirosan's diary

散文とか

蒼い氷点下濾過

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――水槽に沈む金魚鉢を見ている。六月の末路、螺旋構造の硝子とガラスが触れあうこともない青い水20cmの中では、未来と過去を啄ばむ死にぞこないの上海金魚の群れが、今にも酸素の世界に浮かびそうな。

 僕らは青に碧い氷を注がなければならない。今にも澱みそうな、今にも砕け散りそうな正方形の水槽と、楕円形の金魚鉢。摂氏29℃、死ぬべき境界線まであと一歩という眩いばかりの朝の空、その下の黒いカーテンに覆われた1019の氷すら溶けて消えるのは現実か。

 不定型に構築された画面の中、赤い雪景色の井戸に交互に投げ込まれる白衣と氷塊。モノクロームのサブリミナルに映し出される水子雷魚、瞳孔のひらいた誰かの右眼。それらが儚いと虚勢を張る頃には、君は何処にも、そして誰にも触れることが出来ない水中で息を止めるのだろう。

 アイスピックで突き刺す、錆びたカウンター。効き過ぎたクーラーの空間で耳鳴り。紅い薔薇が藍に変わる時、座席の足元に散らばる破片に映るのは希望それとも絶望?問いかける時計の針が睨むままに朝を迎え、水色のベッド街に氷をばら撒く。

 此処は何も無い、始めから或いは?そう嘆く若々しいビロードが千切れゆく。雨音、雷鳴、梅雨に枯れる花びら。幾千の十字架が折れる時、傍観者の水槽の心は凍りつき、金魚鉢の心も凍てついた。

 僕らは死んだ魚のような眼をして、唯唯青い水の中に沈んでいる。熱を避けるように、汚れた空気を遮断するように。けれど、少しずつ然し確実に温度を零下に近づける無数の氷は、水面下で溶けながら蒼い水をより深く染め上げ、やがてひび割れる運命の速度を上げている。