haiirosan's diary

散文とか

Blurred Border 1

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 鉄塔から墜落する彼女の記憶、燕の折れた翼、吊るされた燕尾服の彼氏。

――誰もが逆さまの午後五時、ブルーレットを沢山抱えた僕は家路を歩んでいた。純粋で無機質な青の隙間、肥満体のダンプカーがマンホールに落ちゆき、自転車に乗ったニキビ面の中学生が惨殺死体へと彼のEnter keyで変換される金曜日の夕刻は、無気力症候群で酷く多次元的。

 枯れ枝、曇り硝子、鈍い靴音、全てが灰色の街。そういえば午前二時、偽善者の太陽は鬱病で今日も一日中寝込んでいる。と、友人のBが云っていたが、彼もまた閉鎖病棟に入院という名の監禁拘束をされており、それこそ透明で痛みを伴った眠りについているはずなのだが。あぁ、おかしい、おかしい、彼の声がまるで神の声の如く、僕の鼓膜と脳髄を震わすから、僕はこの世界においてのけ者なんだ!

 そう叫べば誰もが白目を剥く市営バスの車内。十個ほどの座席に逆立ちする首なしの二十代女性十名。肩口に刻まれた黄色い梵字、赤い薔薇の刺青は同性愛の証じゃない、本当さ。だって切っ先からブルーバードが青く美しいまま這い出ているから、だってブルーグラスが垣間見える脊髄から艶やかに悲鳴を上げているから。それよりも五月蠅い憂鬱病の109をいつか爆破するのが彼の夢ですとも、ええ。そしてそれは実行支配に渋谷の虫けらども、苛々するだけの雌牛の吐き気のする臭い「だけ」をチェインソーで切り刻み続けてもう十杯目のジントニック。何年やっていたかは忘れちまったと哀れなアルコール依存症でもある初老の男は語る。

 ところで、誰も彼もがThe Bar或いは居酒屋に滑り込んでいく、という幻覚を視るのは、僕が月曜~冥曜まで街外れのミニシアターで永延と『ドグラマグラ』のフライヤーのみを見続けているからなのか。祭文、近親相姦、震える指先、床屋と九大の記憶は太ったBarryおじさんの吐息しかない。伸びきった髪と青い服を着た犬にあげる緑色の飴と福沢諭吉ロイド眼鏡の呉の叫びはどっちにしても不気味だった。

 ポップコーンの前夜祭、コカコーラを深夜三時に呑む背徳、磨き忘れた歯と革靴、フレンチ・ポルノ、赫いシーツ、ダガーナイフで切り刻まれた白い足先は現実の夢を伴っている。石ころを蹴り飛ばせば、見ろよ、あの黒い海に溺れる角砂糖みたいに凝固した血液を。黒い塊、狂いそうな疋蛙に仕込む爆竹、緑が赤に変わる、正気が狂気に変わる、全裸のゴダール杭州街道、中華料理シンドロームの悲劇、下北沢のペットショップに突っ込む車椅子の群れ、僕はニコチンタールを全身に塗りたくってハムスターを触りに行く。

 そうして日々を生きているふりをすることに疲れたから、公営団地の十階踊り場辺りでほくそ笑む午前三時。