haiirosan's diary

散文とか

902から孤立した場所で駆け回る赤白

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 逆さまの私がいる地上902m、血が上る理科室、秘密の殺人、人体模型に造花と白髪を詰める夢。Glideする彼らの暗喩、雫に濡れた黒曜石と折れた骨で造られた禁忌の高層建築、その白と黒を糾弾するかのように聳え立つ、幾つかの傾いた象牙の塔には902人の裸の王様と王女の宙づりが揺れる。

 そして太陽が愛想をつかした灰色の空を、感情をなくしたまま浮遊する青いサンゴ礁は酸素を得る為にもがき続け、1秒ごとに黒い海にゆったりと然し確実に沈みゆく白目のカモメは、海中の空の缶詰とCDケースを感性を失った姿でひたすら突いていた。ただ、ひたすらに。

 アレキサンダーの嘆き、アリストテレスの悲嘆。建築学倫理学の書は全て焚書となった未来、古びた双眼鏡で見える限りの僕らは誰も人では無くなっていた。例えばそう、小学校「であるかのような」の校庭で走る小学生「のような」塊、赤と白の帽子「を模した」数十()が競い合うような何かをしている風景は、ともすれば亡国某国の友好平和条約を締結している様にも見えるし、ビニール傘で互いのどちらにあるか、否そもそも存在するかも定かではない心臓を突き刺そうとしているようにも見える。

 歓声は悲鳴かもしれない、チャイムはサイレンかもしれない、彼らは本当の鬼から逃げているのかもしれない、彼らは本当の鬼を殺そうとしているのかもしれない。

 ところで、消失点にある或る台所における紺色の暖簾の向うには一体何があるのか?

 禁酒法時代の赤ワインか白ワインか、それとも解禁日に殺到する蟻を粉々にするトミーガンの鉛の雨か。

 赤い眼をした吸血鬼か白い羽を纏った天使か。

 赤福 大福

 赤マント 月光仮面

 刺殺体 白骨死体

 蒲鉾 千歳飴は両性愛

 ある日を境に、僕の思考回路は暖簾の向うの未知について、女郎蜘蛛が巣を張り巡らせるように、そのことに自ら絡めとられていた。来る日もくる日も、1秒、2秒……電子時計は翌日どころか数分しか刻んでおらず、果たして僕が狂っているのか時計が狂っていたのか?

 そして、いつの間にか7歳に逆行した僕は、まだ湯気が立っている蕎麦を食べ残し、自宅の台所の暖簾を無防備にくぐっていた。

――気づけば真っ暗闇の空間、何もいない場所に立ち尽くしていた。丼に遺した二八蕎麦の幾本かが、『蜘蛛の糸』のように天上から垂れさがってくることも無さそうだ。

 けれど、いつの間にか右手に持っていた紅白の蝙蝠傘をさせば、この無音の虚空で永遠に孤独で、哀しみも苦しみも無くいられるような気がした。