haiirosan's diary

散文とか

06080610

絶望の豚が火焔に呑まれる

カストリの酔海が紫陽花から降り注ぐけれど

僕らが6月を忘却することへの示談にはならない

震えが止まらない右手、電気羊のバタフライ

夕暮れに泳ぐ彼女は

溶けることのない塩素剤を求めていた

電話線で首を吊る想像

翳されたカッターナイフが刃毀れするまでの白昼夢

ランタンに映る変死体を肯定せよ、と

デスマスクの無い絵画に眼球奇譚を書く悦び

音楽室の七限目、揃えられた白い上履き

黒猫の足音止んで

鳴り止まない家庭科室のミシンの音色に

揺らぐチョークはキャンディへと変換される

「私の救いは水割りなの」

そう云って21歳の彼女は死んだ

淡い夕景に沈むように、朝靄が消えてゆくように

……ジェームズ・アンソール「仮面に囲まれた自画像」

ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

彼らの描く救いのない世界

キャンバスを糾弾する丸焦げの豚ども

油彩に火を放つ15歳の碧い瞳は澄み切ったままで……

砕け散ったワイングラス

床に散らばる記憶と皐月

明日の無い太陽が笑みを零す時

僕らは暗いくらい影をずっと視ていた