絶望の豚が火焔に呑まれる
カストリの酔海が紫陽花から降り注ぐけれど
僕らが6月を忘却することへの示談にはならない
震えが止まらない右手、電気羊のバタフライ
夕暮れに泳ぐ彼女は
溶けることのない塩素剤を求めていた
電話線で首を吊る想像
翳されたカッターナイフが刃毀れするまでの白昼夢
ランタンに映る変死体を肯定せよ、と
デスマスクの無い絵画に眼球奇譚を書く悦び
音楽室の七限目、揃えられた白い上履き
黒猫の足音止んで
鳴り止まない家庭科室のミシンの音色に
揺らぐチョークはキャンディへと変換される
「私の救いは水割りなの」
そう云って21歳の彼女は死んだ
淡い夕景に沈むように、朝靄が消えてゆくように
……ジェームズ・アンソール「仮面に囲まれた自画像」
ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」
彼らの描く救いのない世界
キャンバスを糾弾する丸焦げの豚ども
油彩に火を放つ15歳の碧い瞳は澄み切ったままで……
砕け散ったワイングラス
床に散らばる記憶と皐月
明日の無い太陽が笑みを零す時
僕らは暗いくらい影をずっと視ていた