「この中に死者がいる」
そう叫んだ君が居たのは深海のような霊安室だった。
藍色の避雷針、12月の造花、空白と海月
ただ、溺れていたような気がした
――私の足を白衣で包む暁光の海抜零m
私の瞳に映るのは夕焼けの指先が描く、「静かな終末」だけだったのに、
アマリリスの円卓上で存在しないはずの紅茶が揺れる
角砂糖を削岩するシンディーのアイスピック
Salar de Uyuni に落ちていた、赤い靴とブランケット
彼女は天秤に載せた砂糖と塩に無言のままアルコール・ランプを翳した
理科室の夢 揺れないカーテン
色褪せた記憶、色の無い森の記録
3階の踊り場、開かない傘濡れて
穴の空いた上履きと心に、貴女が狂う前に救いを
ほら、3番目のドアが音もたてずに開いて――
「この中に死者はいない」
そう叫んだ君が消えたのは、深海のような404号室だった。