haiirosan's diary

散文とか

忘却の月、救済の糸

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婉曲する剃刀が、夕暮れの肌を切り裂く。
幽かな翡翠色の希望すら、
麻酔もなく轢断されて__
304号室に遺された、空白の浴槽に溺れた脾臓。 
無表情に突き刺さる画鋲が
そっと笑みを浮かべた時、
遺影から拭い去れない血が流れだす。
氷結した彼岸花の断末魔に、
埋葬された「か つての 希  望」が
微かに呼応する。
再び忍び寄る、鋭利な影。
止むことの無いサイレンから、
そっと逃れる鴉の群れ。
やがて、深紅が死体を隠すとき、 
誰もが鉈を振り翳した。
影絵散りばめられし蒼白
遊泳する幽かな炭酸が爆ぜて、
灰色の地上は瞬く間に火の海と化す。
業火の渦中、水を求め、
或いは
(救済の糸)を求める人々が灰燼へと帰してゆく。
アマレット融解して、夕凪は瞬く間に酩酊する。
獄焰咲きほこる神無月、
睡魔に犯された「忘却の月」に__
静かなコンバースに、あまりにも穏やかな穴が空く