地下鉄、階下に横たわる海柘榴。
声にならぬ声が刻まれた39面
奇数を刻む段数に、偶数はそっと唇を噛みしめる。
剥がされた革靴、暴かれたハイヒールの行方
紅に濡れた花片は艶めかしく、階上の紙煙草を静脈血で浸せば
此処には忌避すべき喧騒も、モノクロームの靴音も
そっと柔らかに消え去ってしまうから。
白黒を染めるのはいつも、被害者じみた殉教者の血だって
記憶の子供たちはいつも、砂場に「彼」を埋めていた。
血漿ばら撒く春の唄、(曇天に潰れた心臓)は、安らかな吐息を吐きだし
プールの底の水死体を火葬するために奮闘している。
渇ききった戦争はいつも4月を鮮やかに染めて
透き通った雨すら、紅き長襦袢を纏って――
柑橘、浴槽、風鈴砕けた 夢
――神の手は滲むピンク
じりじりと夜をゆく
夏の境界線、肌の死を忌避したいから私は?
試験管に閉ざされし造花は、その色彩を瞬く間に散らして。
8限目、理科室の夢うつつ
心肺を纏ったドレス
静脈ひた奔る硝子の靴
――世界は再び濃霧に覆われて、匿名の遺体となった。
街を包む水色の抽象に、少女たちは唯、その濁った瞳を浄化してゆく。
清廉さに浸された景色の片隅
僕の両目の充血は、未だに逢魔ヶ時をさしたままだというのに……