haiirosan's diary

散文とか

地下鉄、血漿散る水無月

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地下鉄、階下に横たわる海柘榴。

声にならぬ声が刻まれた39面

奇数を刻む段数に、偶数はそっと唇を噛みしめる。

剥がされた革靴、暴かれたハイヒールの行方
紅に濡れた花片は艶めかしく、階上の紙煙草を静脈血で浸せば

此処には忌避すべき喧騒も、モノクロームの靴音も

そっと柔らかに消え去ってしまうから。

白黒を染めるのはいつも、被害者じみた殉教者の血だって

記憶の子供たちはいつも、砂場に「彼」を埋めていた。

血漿ばら撒く春の唄、(曇天に潰れた心臓)は、安らかな吐息を吐きだし

プールの底の水死体を火葬するために奮闘している。

渇ききった戦争はいつも4月を鮮やかに染めて

透き通った雨すら、紅き長襦袢を纏って――

柑橘、浴槽、風鈴砕けた 夢 

――神の手は滲むピンク

じりじりと夜をゆく

夏の境界線、肌の死を忌避したいから私は?

試験管に閉ざされし造花は、その色彩を瞬く間に散らして。
8限目、理科室の夢うつつ
心肺を纏ったドレス
静脈ひた奔る硝子の靴
――世界は再び濃霧に覆われて、匿名の遺体となった。

街を包む水色の抽象に、少女たちは唯、その濁った瞳を浄化してゆく。
清廉さに浸された景色の片隅

僕の両目の充血は、未だに逢魔ヶ時をさしたままだというのに……

成層圏、紅色のオーケストラ

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淡きリキュールに細波が抱擁を求めて

藍色の頬は幽かな熱を抱く
あの空と海(のような)陰画はやがて切り裂かれ

其処に「七限目」はもう存在しなかった

薄荷ざわめくいつかの空白

奇数と偶数の狭間、成層圏とオーケストラ

柔らかな枯葉がワルツを奏でる
――彼方、波打ち際のような雪雲の五線譜が揺らぎ

季節はまたひとつ足音を消してしまった

宙空のサーカス業火に溶けて、ブランコから崩れ落ちるサルトルのおうと、唐突なる悲劇に台本を紛失すれば、誤った焚書にあなたは鉄の牛に寝転んで――
熱帯夜の永眠、

極楽鳥が彩る炭化した天蓋に視る夢は

あまりにも黄昏色が深くて――

密林の地下鉄 横たわる海柘榴
紅に濡れた花片は艶めかしく

階上の紙煙草を静脈血で浸せば

此処には忌避すべき喧騒も

モノクロームの靴音も柔らかに消え去ってしまうから……

「そして桜が血を滴らせる。花瓶のアリス、アリスの造花に過敏性な早咲きの少女、口紅の食紅があないとしあがないとし、死体の肉で最もワルツが踊れるのは膵臓であり水槽で水の中のナイフと少年がスマートフォンを翳すのは3104丁目のアルビノ金魚前だってこと。そう、新宿アルタ前なんかじゃなくて」

薄羽蜉蝣の記憶

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血小板の夕暮、君の血は致死量を超えてまで夜を忌避する。
心のシャッターに幽かに刻まれる爪痕
死への欲動は、浴槽に投げ込まれた造花が魅せる快楽と夢。
呼吸を審判する水の中には
錆びることないナイフが揺らいでいるから
__
彼方の警告音
泡沫に眠る雲に簪させば
不穏なる空はそっと匕首を奔らせる
不協和音の交響曲と鴉の断末魔……
悲劇は足音もなく
あまりにも澄んだ化学式を伴って此処に。
いつか、解放されてしまった外科室
切り裂かれた季節は血を抑えることなく――
暴かれた色彩とうな垂れた刹那
沈黙に浸されたメスが
柔らかな肌を選び取るから

白い肌と冷たい火焔 打擲されし暁の茜
奇数だけが鮮やかに炎上する数列に
静脈血に染まった刃先はいつかの空を彩る
――薄羽蜉蝣纏わりついて、
私は零れ落ちた血と紫の記憶を、
少しばかり思いだした。

むらさきのそらと痛絶

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刹那の紫鏡ひび割れて、あの日の少女は「死の部屋」を描くことを選び取ってしまう。
鮮やかに痛く、-を刻む筆先、

不鮮明な色彩に誰も拍手を送ることなく、

栄光と光に充ちた記憶すら、
やがて翳んでゆく――

暗い太陽

暗い笑み

彼岸の白昼夢は止まぬ秋雨と

死にぞこないの揚羽色が網膜に揺らいで

__墜ちて
泣き濡れたワルツを踊る紫式部と花花は、私の渇ききった心と血管を

終わらぬ「痛み」を伴って締めつける。

そう、夕暮の出血は冷たく

あなたの視線も、みんなのしせんも冷たく

アスファルトに染みこむドライアイスの暗影

夏の墜落花火、六月はあまりにも刹那的で終末的だ。

終幕の業火に抱かれた60階は、其処から身を投げた後悔に、一匙の熱病をもたらした。
暗い影と化してゆく人の群れ
傍観するブルーバード飛び去って
彼方のサイレンが「なまえのないエンドロール」を手繰り寄せる。

逢魔の坂は誰もが正体を喪い、その心は轢死体へと変換されて。
「むらさきのそら」隠蔽される真相に
嘆きの悲鳴すら渇ききって――
私は唯、路上の埋葬に夕暮れの火をくべつづけていた。

リキュールの夕刻、死亡記事の行方

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カササギ掻き毟る夕刻

蜜柑曳き殺した夕景

ページをめくる指は一つ、また一つと失い……

死に至る病』の最終頁に、私は氷結した希望を溶かしてしまった。
6月、渇ききった唇、口紅の水死体(は)美しき季節

沈まぬ太陽に左手を振れば、

此処には憎悪と無感情が血に染まり__ 

秋雨の跡、死者への花束散りゆく午後__

遺失物の絨毯を蹂躙する葬列は

朱に括られた自らの首を傍観し、何処へ向かうのか? 

裸足から染みる敗血

ヒールから崩れた足音

血染めの教会に零れゆく旋律

イロが融解していく時

目隠しのビルは奇数を忘れて__

半開きの口 悲鳴すら不協和音と正体のない笑み
新宿の境界線 暗闇渇ききった暁
――私は此処に忘れた何かを、光のないアルコールと共に思い浮かべていた。 

リキュールの水平線が黄昏に揺らぎ

睡魔と死亡記事遺されて
酩酊の幸福論

意識外の絶望

翼を切り裂くカッターナイフは水色を帯びて……。
暗翳から見上げた夕光は、唯、焼けつくような眩さを湛えて―― 

水彩画には誰もいない

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桜花のような心臓爆ぜて
春の冷たい花火は「無人の哀画」を柔らかに染めてゆく。
彼方の柱時計、ひび割れた季節
うしろのしょうめんと匕首
障子濡るる渇ききった春雨
ただ、雨にうたれた私には涙すらなく
――色、イロに拐かされた景色は
藍毒と狂った夢を火薬樽に巻きつけて
夕刻の校庭と遺失物
隠匿されし背景は淡い血痕滲ませて、混迷__
「身を投げた靴音」
屋上と傍観者の飛行機雲
砕け散ったチョークの色彩褪せて……
7の始まりは、全ての終末へと導く階段への手がかりだと云うのに。
幽かに遊泳する霧は
暁の戦慄と翠緑を抱擁し
彼女らの罪とナイフを掻き消した
拭い去れぬ血と記憶
喪われるアイデンティティ
なくしてしまった『審判』の最終頁
――霧が晴れたとき、此処には誰もいない――

切り裂かれし密は夜の罪を暴く花園と暁の夢中夢に水死体を描く水彩画に誰が潤いを渇望するのか?
誰もいないよ、この水彩画には。
だから、そっと蒼き唸りをあげて、世界

夕刻に揺らぐ紅茶のイロは__

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薄ぼんやりした終幕は
何処までも冷ややかな熱を帯びたまま
唯、氷塊のような針時計を逆行させている。
――いつの間にか色彩を喪った朝焼けに
世界は焦土と化して
彼らは裸足であることを忘却してしまう

「もうひとつの天国」

垣間見の蒼に虚ろさ揺れて
いつからか濁ってしまった網膜に映る清廉な世界は、貴女が瞬く間に業火に包まれてしまうから__
雨色の果ては唯、
明滅する光に冒された影たちが横たわり、
アスファルトのベッドは
名も無き遺体を抱擁する。
炎のような水流に伸ばす手すら
彼らは黙視してしまったから
夕刻に滲みた紅茶は、
憂鬱の炎をくべながら、
逃れようのない柔らかな宵闇をぼんやりと夢見ている。
暗翳の蒼揺らいで……
冷めゆく熱病
藍色フレーバー吸い込まれて
暗幕__