haiirosan's diary

散文とか

人身事故者とレッツスピーキングスーサイド(漫画原作用)

・設定やら前置き

 

 十月、舞台は某T上線・S駅の閑散としたホーム。午前2時、駅にたどり着いた「僕」は自転車を乗り捨て、懐中電灯を片手に昨日目の当たりにした人身事故の現場へと踊るように跳ね歩きながら向かっている。「僕」は27歳・ニート。ある特殊な性質(※数か月以内に何らかの負の念を抱いて、その場所で死んだ人間の霊が自身の意志とは無関係に視える。その霊は「僕」に接触や会話を行なって来るが、大抵は情念に満ちた霊の為、基本的にはロクなことにならないにも関わらず、「僕」は霊や人の死が堪らなく好きである)のおかげで、あらゆる仕事や関係が全く長続きせず、結局実家で毎日ネットサーフィンに溺れている。眼鏡で薄毛、背は低く、やや太り気味。人身事故の現場はホーム内の中程にある小さな売店の前。事故が起きた瞬間、缶ビールやジュースが入ったクーラーボックスに切断された顔の半面がへばりついたり、新聞やお菓子が鮮血によって真っ赤にカラーリングされていた。ホームでは悲鳴と怒号、サイレンや警笛の鳴き声、ゲロを吐く人、泣き喚く人、一心不乱に写真を撮る人の群れの中で、僕はニヤニヤ笑いを浮かべていた。

 

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 僕は丑三つ時、深夜の十月の曖昧な気温に包まれながら、今日目の当たりにした人身事故の現場に向かい、自転車を一心不乱に漕いでいた。彷徨うヒキガエルを轢きつぶす、転がる空き缶を真っ二つにする、深夜徘徊する糞餓鬼を跳ね飛ばしながら、今の僕の自転車は例え2tトラックと正面衝突しても耐えきれる、いや寧ろトラックの忌々しいけばけばしいボンネットを粉砕することが出来るという意味不明な自信を纏いながら、S駅に突き進んでいく。

 辿り着いたS駅。各駅停車特有の田舎臭さ、暴走族やチーマーすら集会を開かない、東京ローカル駅ならではの静けさに満ちた其処は、それども近隣に安っぽい飲み屋が点在している為に褐色の吐瀉物や、靴ずれを起こしたハイヒールを履いたまま座り込むアバズレ、ホームのベンチの下に転がる、明らかに終電を逃した40~50代の哀れに禿げたリーマンの親父が熟睡或いは泥酔している。

 僕はそれらを後目に人身事故の現場に向かう。売店の前、今日(正確には昨日か)のS駅の主役が、五体満足ではあるが、いつか観た映画の南米ゲリラの拷問の如く、マチェットでうっすらと全身を中途半端に刻まれたような姿をして猫背で佇んでいた。彼の肌は青白く、刻まれた傷跡の暗さと同期しているかのように、俯く表情も何処か虚ろであった。

「やあやあやあヤー、今日は派手に飛び散っていたねえ~。君の五体不満足グラビアを一心不乱に写真に収めていた奴もいたし、もっと陽気にしていたらどうだい?」僕は至極明るい調子で彼に話しかける。

「まあ、俺は自殺した身分だからね。そうそう元気ハツラツなノリではいらんないぜ」彼はそう呟き、胴体から首を何の造作も無く離し、右手の人差指で自らの生首をクルクルと回転させてみせた。

「あんたは俺より若そうな感じがするが、どうして自殺なんかしたんだい?」霊特有の、と云うよりも霊にしか出来ない突拍子もない行為に僕は多少たじろぎながらも、平静を保ち、目の前の彼に尋ねた。

「俺は高校3年生なのだけれど、正直今の生活にに疲れちまったからさ。俺は一人っ子だし、引き籠るなんて贅沢は固物の親が許さない。毎日頭痛や下痢と闘いながら通う、学校の同級生の女はブランド物のバッグだかを買う為、女友達連中のクラブ遊びからハブられないように学業は浅漬けバイトはぬか漬けで売春もおかまいなしのヤリマン、男のダチは先輩にリンチされないようにする為に弟の友人から恐喝、親の財布から諭吉を盗んで日々を凌いでいる。傍から見てもバカな一見ガリ勉眼鏡のクソ真面目低脳野郎は親や教師の期待に応えよう、少しでも勉強の効率や効果を上げようと、暴力団やらから覚せい剤を大枚はたいて買っている。かと思えば常に涎を垂らしているか寝ている一切やる気のない・能力もないキ××イボーダーの野郎は、ギャンブル中毒の親父が突然自殺したからか、最近になって四六時中意味不明な妄言を呟き続けやがる。そんな連中に週5~6通う教室の前後左右をサンドウィッチみたいに挟まれてみろ。どんな神経のズ太い奴でも自殺したくなるぜ」彼は吐き捨てるように自殺した訳をまくしたてた。

「なるほどナルホド。しかしアンタの自殺した理由はそういう周囲の環境だけなのかい? さっきからアンタの右腕に眼鏡をかけた学ランの痩せぎすの男がしがみついているが」 傷跡の残る彼の青白い腕、それ以上に蒼白なか細い腕が彼にしがみつき、その腕の持ち主が一心不乱に数式やら年号やらを唱え続けている。赤本進学塾のテキスト東シンはいすくーるで書き殴ったノートマーカー付箋だらけの汚れた教科書を背中や腹部に埋め込み、傍から見てもバカな一見ガリ勉眼鏡のクソ真面目低脳野郎は互いに幽霊となっても彼のアタマを狂わせようとしているのか、或いは無意識のままに少しでも点数を上げようとしているのか。薄闇に包まれたS駅に呪詛が響き渡り、それと共に彼の目は白眼を剥き、傷跡からは赤黒い血が噴き出し始める……「x=2.5 y=0.5の時(2)-2xy+y(2)tは正の数、Oは原点(0,0)です次の条件ヲ満たすように関数f(x)とg(x)の増減を調べ整数m、nはmn二乗を満たす素数tan有理数かどうなのかええエエエエエエエ5かんじょに7こくの使者:57年なみだな(737)みだで四子死亡:藤原四子が相次いで疫病死なじみ(743)の年号天平15年:墾田永年私財法、大仏建立の詔あっという間に日は暮れ(1890)る:第1帝国議会ウカミホハムハオモコアフアハカノアヒシヨカアヨハイキイサタミフオスナタサオヒハコヒアヨココトコスイクヤマイマイオヤイカサカサカヤオテハタカヤキカカワタハワイ」

僕もまた白目を剥いた。