haiirosan's diary

散文とか

八月、行方不明の彼岸花

白い太陽が照りつける八月、何時の間にか私は行方不明者として、そこかしこの錆びた掲示板にビラを貼りつけられていた。行方不明という穏やかな扱いをされてはいるが、私は多分元の世界にはもういない。死んだ記憶も殺された記憶も無いけれど、目の前に拡がる無人の名もなき街、いや、恐らく新宿の繁華街なのではと思わせる廃墟や看板が散見される。此処は未来なのか或いは同じ時間軸の異なる世界なのか…。この静かな場所がずっと続くと思うと何とも形容しがたい心持になる。人間は存在せず、代わりに奇妙な形をした黒い影が無音で漂う。ひび割れたアスファルトから真っ赤な彼岸花が咲き乱れ、白い太陽が銃創のようにこびり付いた赤黒い空が延々と続く世界。どこからか幽かに水の流れる音がする。私はその音のする方へ歩みを進める。30分程歩いただろうか。ここが新宿だとしたら、見たことがないというか存在すらしないはずの巨大な紅い河が現れた。岸辺は薔薇色をしており、今にも崩れ落ちそうな桟橋が見える。ここは一体……。足元を見ると、何か文章の書かれていた真新しい紙と古びた券が落ちていた。

「向こうに見える彼岸花
無効になった乗船券
舟は紅色の水上を滑り始めた
遠ざかる誰かに手を振って
私はぼんやりと桟橋に立つ
くゆらす水煙草は血潮の味
チャイナガール ストリップ
欲望まみれ 汚物まみれ
照らす太陽に眼を焼かれ
盲目のサル 芝居が下手だった
生きても地獄 死んでも地獄なのか?
薔薇色の岩肌 漂う霧 誰かの呻き
曖昧な死後 目の前をふらつく畸形
女か男か 人か獣か 善か悪か
誰もが曖昧 死んでも曖昧
モザイク仕掛けのフリーク・ショー
行く当ても無く あるはずも無く
私は広がる紅の景色に足を踏み出し
この世界を彷徨い始めた 」

私は紙を破り捨て、引き戻されるように街へと踵を返した。