haiirosan's diary

散文とか

散る桜、遺る櫻は果たして本当に幸福と云えるのか?

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Cogito ergo sum,コギト・エルゴ・スム……

 海月のように永延と電線が揺れる街。陰月の色褪せた世界に蝶々の様な桜吹雪が舞い踊る中、俯きながら彷徨う君は、かの有名なデカルトの言葉を3秒ごとに呟き続けていた。そして、唇も声も枯れ果て、刹那の桜が淡く死にゆく頃に狂ってしまった。

 午前四時の明晰夢と懐疑精神、それにニッカウヰスキーの滴る琥珀に沈む生活の中、小さな部屋で鳴り響く不協和音とクーラーの機械音が正常を装う異常を遮断する最も的確な音である、と。

 然し、その今わの際の言葉すら、パレードと始まりの季節、そして地獄の季節に響く車輪と車体の艶めかしくも生々しい悲鳴に、私の記憶からは掻き消されようとしている。林檎飴の赤が青に視えるように、美しい蜜柑飴の溶けた後には醜い蟻の群れのみが残るように、それは狂人のパラノイアとして、何時からかAndroidと化した少女の鼓膜から砂塵となって流れ去っていったのだ。

 私が此処にいる、私は此処に居る?君は何処にいる? 問いかける藍色の春は応答するはずもなく、嘔吐する橙の朝焼けとワイングラスにへばり付く清らかな水だけが嘲笑うような、そんな日々に存在を確かめる意義はあるのか?意識を喪いそうな偏頭痛、濁りきった瞳に映る幾何学的形状の人生と営みに少しでも足並みを揃えて遣り過ごすことすら本当は恐ろしいのかもしれない。

 不可視の判定用紙、すべてはFに、それともD否Bかも判らぬまま、十代の僕は青春の綴じノートにMemento Moriを描き続けた。水槽の熱帯魚は踊ることを止め、彼女のスカートは炎に包まれ、彼のシャツが舞い落ちても、十二階の窓枠に凭れて眺める蒼い碧い空は、全ての惨めな死と狂乱ですら穏やかに抱擁し許容してくれるような。そんな愚かな気持ちを抱いたままの哀れな廃人を、いつまでも神が赦すはずもなかった。

――春粧を施した夕暮は地獄絵の如く、途方に暮れるフリージアの或る日は、風車の見える躑躅の丘で縊死する君の顔色のように、青紫色に染まっている。

 燃え上がる夕景、揺れる蜃気楼、穢れた桜。ぼんやりとした不安だけが、時折私の脳裏を無軌道に横切り、「……」を囁いてゆく。それがより私を虚ろに沈みこむ様な、或いは死にたくなるような心境に追い込む。そして、その不安は近い未来にボンヤリとでは無く、明確で逃れようのない牢獄のような狂気として私の内面を完璧に犯すのではないかとも想う。そう、狂いそうな、或いはもう狂っているのかもしれないが、日々の酩酊した足下にもし拳銃が落ちていたならば、私は躊躇いも無く自らの命に向けてその引き金を引くであろう。