haiirosan's diary

散文とか

黄昏横丁にて水菜が裸に剥かれるような、

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――厭にくぐもったエコーと劈くサイレンを纏う、どもりの市内放送。もう大人になってしまった私或いはあなたに捧ぐ鎮魂歌は、どうやら昨年の八月の水の中に溺れてしまった少女と老婆が未だに発見されず、傍らに落ちていた手編みの買い物袋ですら、彼女のたちのことを忘れてしまったとのこと。だから、どうにか民放の黄金時間にこのことを露出したい、と。

 ところで、例えば「十二指腸」という文字の並び及び単語は、幾%の人間にとっては酷く醜いという印象を与えるであろう。もし僕らが好んでかどうかは分からないし、貴女の事など知らないが、行きつけの焼きとん店や居酒屋、焼き肉店で臓物系のメニューが漢字やそれ本来の名称で記載されていたら、興味は惹くものの、多少なりとも違和感を覚えるだろう。舌、横隔膜、小腸、子宮。

 僕らは死ぬような思い、尤も僕は零世代の負け犬だから先人達が工夫に工夫を凝らして編みだした清廉な文化の漂白剤に浸かっているだけだけれど、それを享受して生きている。だが、夕暮の末期の影が揺らぐ街路樹の下で、平穏と安穏を舐めつくすドロップの様な五月に、林檎と奈良漬けを貪り喰らう山高帽の野卑な闇は、どうしても赤い眼をした石仮面の僕らを怯えさせている。

 そう紅い豚を三百匹積んだ荷馬車と蒼白い赤子が人工芝のゴルフ場のフェンスに切りもみして突撃するように。凍りついたサウナで常夏の夢を観ながら霊安室に送り込まれるように。誰もいない公園で暗い罪と甘い蜜を捉えたことを気づきもせずに暗室に24.45時間籠るかのように。

 八月の水の中、ミズノナカ、みずのなか、剥かれた「水菜」、紫の林檎、奈良漬けのような指先、あ、あ、あの日のことはもう忘れたいんだ!黄昏横丁1丁目、青島ビールの瓶が転がるバラック街の中では一際高貴に見える喫茶店の片隅で、山高帽の女は私に喚く。

 何かが終わっていくかのような昼下がり、土色の汗、無風の真夏の上海のような世界の情景。噫、君が女だったとは、私にはどうしても男に見えたのだけど、と温いおしぼりを指先で弄びながら嘯いた。

 次に口を開く彼女の言葉の連なりは、どうしてもあの市内放送の残響音と吠声にしか聞こえず、私にはたったの三十分が24.45時間を過ごしているかのような気概になったので、Ipodから繰り返し繰り返し流れるJOY DIVISION「24Hours」に耳を傾けていた。

 紫色の空、ネオンの蠢き、誰そ彼時が終わり、気がつけば五月も終わる。鋼鉄の朝に身を投げた人々も霊安室の海では綺麗な裸なのだろうかと思いながら、眼の前に遺された血反吐のへばり付いた買い物袋と、水浸しになった髪飾りをぼんやりと眺めている。