haiirosan's diary

散文とか

モノクロ、碧、黒マントの縊死体

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三輪車に激突した朝、空中戦に墜落した麻畑で私は狂う。
ビートにピート、ディス・ヒート。トーチカ貫く水兵の三半規管、フィッシュ&チップスにくるまれた新聞紙の猟奇殺人記事或は夢の夢の夢を重ねたミルクレープの皮膚炎。

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――それは潮騒の残酷な記憶、繰り返す波の白と蒼、見上げた空は汚れのない青に満ちていて、その中を滑空していたカモメの群れが海上のテトラポットに目がけて沈んでいく。或る日曜日の昼下がり、そんな海の情景を少女は唯凝視しているだけだった。裸足に絡みつく柔らかな砂と蟹の鋏、不意に静寂を切り裂く汽笛やサイレンの音すら、少女の視線を逸らすことは出来ない。「私は明日が怖い。逃れようのない現実に切り刻まれる感覚がするの。孤独、無力、疎外感、絶望、あらゆる負の感情が私の身体に覆いかぶさってくる気がして。此処で海の音や空気を感じていることは抜け殻のような私の身体と心にかろうじて生を吹き込んでくれているから」彼女は社会、いや現実世界そのものから疎外されてしまっているかのような印象だった。明日行く所は?友人は?恋人は?家族は?そもそも私自身の名前は?答えられるはずの問いかけすら答えられない、何も無い空っぽな虚無な存在なのとさらに呟き、呻き声と共に足元の砂のキャンバスに大粒の紅い涙を垂らしていた。

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――時は経ち、何となくやり過ごせた気分に浸る日々、今日も正常だった幸せだったと皮肉めいた台詞を吐く余裕すらすでになく、幾多の地獄の季節は健忘していく記憶と共に瞬く間に過ぎ去って行くが、どうしても少女と居た海辺の記憶を忘れ去ることは出来なかった。あの日、何時の間にか茜色に染まりゆく空と海岸線、うねりを増しあらゆる物を呑みこもうとしているかのような波、穏やかな午後は彼女の涙と共に息苦しい程の不穏と不安に満ちて、振り向いた彼女の瞳は白が黒に塗りつぶされ、その瞳からはどす黒い涙が延々と流れ続けていた。そして、裂けた口元からは酷く歪んだ、だが何処か哀しげな笑い声が響き渡っていた。 生々しい不協和音と沈みゆく日曜日、彼は狂った海を凝視することしか出来なかった。