haiirosan's diary

散文とか

黄昏時、世界の終わり

youtu.be

――曜日すら忘却した午後五時、世界の終わりが静かに訪れた。
手を振る積乱雲、静謐な水色がフェイドアウトしてゆく。電線に絡まる鴉の群れ、墜落するセスナとボーイング×××機。悲鳴も爆音も無く、無言で滴る紅い血と橙色の獄炎が、彼らが翼を喪ってしまったことに哀悼の意を示していた。
かつての澄んだ青空は記憶の彼方だと、かつての少女はプラスチックの破片に切り刻まれて血を失くしてしまったと、行方不明の老人が静かに嘯く。
「萬有の真相は唯一言にして悉す、曰く不可解」
書き遺した青年も、水の中で未だに彷徨っている。
黙止された失血死するカナリア、可憐な青い花の嘆きは、もう誰の心にも響かない
そう、誰の心にも……。

――何処からかサイレンが鳴り響く、
暗く哀しい不協和音の調べ
夕焼けが蛍を燃やし、ビルを火葬する
ステンドグラスの死、鏡が映すゲシュタルトの崩壊
みんな影を亡くすけれど、みんな虚ろなまま
みんな壊れてゆくけれど、みんな死ねない
希望も無く、光が視えない彼女らはノアの難破船で血肉を貪りあう。
死ぬことが殺されることが救いだと、残酷な眼で叫びながら
意味も無く、闇に抱かれた彼らは動脈血に透明を打ちこむ
失ってしまった純粋さを思い出す為と、黄疸した眼で呟きながら
咽喉を殺し、乾きを加速させるだけの海水
バミューダすら、赤く染まった箱舟を救済しない
彼女らは食屍鬼になって(しまった)と証言者の彼は喚いていたが、友愛に取り憑かれし彼女達が携帯していた刃物と狂気に誰も気づいていなかっただけかもしれない。
ダガーナイフ、アーミーナイフ、バタフライナイフ
歯毀れの先にあるのは黒焦げになった星条旗と王冠
マネキンの縊死体 着ぐるみに詰められるパステルカラーの淫らさよ
破裂する鉛色の風船、屋上から撒き散らされる肌色のクラッカーの破片
炭のように焼けた夕日、灰かぶり姫の夢遊病が散った夕空
やがて、最後の警告が幽かに鼓膜を揺らした気がしたけれど
世界の終わりに手向ける花束を、僕らはもう持っていなかった――