haiirosan's diary

散文とか

水羊羹を誤読して、彼の躍動或いは記憶

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――或る日、彼は水羊羹を誤読してしまった。
彼が誤飲したのは暗い黒いスーパーボールだと彼女は言ったけれど、僕が視ていたようなサ変の上二段と「世界の終わりな沈黙」を目の当たりにしてもワルツを踊るスーパーボール。
見知らぬ黒服の生ける屍が這い回る街、見知らぬ異国の少女たちの赤い靴が撫でる34‐56,見知らぬ二人が這わせる唇それとも口紅?
僕のコンタクトレンズが外れたことは秘密だよって、
僕みたいな誰かが囁いた気がしたけれど
6月の花壇の汗ばんだ君の名を忘れたから、わたしはうつむいたままだ、
砂塵の砂埃、二重の羊羹 香る煙草の硝煙
明日のないような無音の車道
明日もみえない白線と境界線を越えて?
明日もきこえないその旋律に血を流す
仮名のスタンダールの筆先が血に染まり、『赤と黒』を描くように
黒いスーパーボールモナニイロを帯びてゆく
Marlboro轢き殺された午前16時、誰も問いかけない彼の色彩
気にも留めず、彼は孤独なショウに狂い咲く坂道
アスファルトを匿名の照明が照らせば、四弦奏者の刹那は譜面を鋭くする
六弦の私が奏でる黒と白が夜に溶ける度、私の箱庭に白昼夢が広がって拡がってひろがって――そこには何が?
……煉羊羹から連想する色は感情迸る赫だと君は嗤う、僕が軒下で君と聴いていたのは水風船と風鈴が粉々に砕けて、蝉時雨だけが永遠を奏でる水無月だった。
――喧騒と鴉が飛び回る街、記憶と記録と化した鉛色の犬
朝焼け、白昼夢、逢魔ヶ時、汚れた革靴、蒼いコンバース、紅いハイヒール
スクランブルのカメラに映るのは濁った硝子の眼
眩しすぎる太陽、狂騒と虚ろを他所に、無軌道に無邪気に転がるスーパーボール
彼の音色とリズムは、確かに渇ききった夜に華やいでいたって
僕らはいつか思い出す気がするんだ