haiirosan's diary

散文とか

Borderline Abstract

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火災警報器と静かなサイレンが長月の終末に木霊する。黒煙の幻聴と静謐なままのテーブルクロス、無人の円卓を囲むウォッカは明度を加速させてゆく。未だに鳴り止まぬ口づけに紅い唇も錆びゆく気配も無く、12番目の少女が血塗れのハイヒールを変死体へと導く絵画の真相は――

――気の触れた水素に白鳥が溺れる、海岸線を歩く彼女の右手に握られたカッターナイフに赤は無く、唯虚ろな蒼が彷徨っていた。救いの灯台は霧だけがたちこめて、倫敦塔の最終頁が切り裂かれた絶望の晴天に、私と君の翡翠の心臓と瞳が芦花文学館で永遠(のような)終点を迎えることを待っている。

何処のバーかは忘れた。浸水するアルコール、着色料で壊れた夜のような朝靄の帳、砕氷のストッキングを愛撫する私はスクランブル・スクリーンに映しだされていて、(ワタシ)の罪と罰は白日の下に曝される。カウンターの90°が89°に揺らいだとき、君の紅いハイヒールの切っ先は――

33の花瓶に彼岸花が突き刺さる。
赤い糸は死の標だと鴉が鳴いた気がしたが、逢魔ヶ時に幽かに視えたのは、解れたままの血管とあやとりだった。砕け散る記憶と水槽、流れだすのは透明な水ではなく、Borderline Abstractだって君は自動筆記みたいに書くけれど、その筆跡からは滲んだ血が揺らいでいたよ。