haiirosan's diary

散文とか

「地下鉄は理科室みたい」

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狭間に蒼と綿飴が揺らいでいた。いつか、錆びゆくメリーゴーランドに座る君は綺麗だったけれど、1989年が翳んでしまった刹那にその眼は茜色に変容してしまった。燃えあがる空、砕け散るオブジェの記憶、すべてがワルツを踊り終えるとき、私の青昼夢もまた終幕を迎える……

そう、錆びついた秤に載せられた私の心臓を視ていた。水族館3F,音階の無い世界で君はどうしてヘッドフォンをしたままだったのか、私には理解できなかった。もし、浮游するのが死骸だとしたら、此処に生者の笑みは無く、ただ水槽が青1号に着色される刹那にそっと息を止めることしか――

虚ろな日曜日を取り戻さないと向日葵が渇ききったままだ。包帯揺れる電線、真夏に死んだ十字架、真冬に笑う紫陽花の歪、秋の牢獄に収監されたピストルと左耳。
星月夜の情景は遠く、遙か遠く――

「地下鉄は理科室みたい」
少女はそう嘯き、プラットフォームでフラスコを踏み砕いた。
朝の悲鳴、不透明家族、不在の革靴。赦されるべきは9月の慟哭だと、早すぎたクリスマスツリーが灰燼へと帰すとき、僕らの忍ばせたダガーナイフは4限目の十字架すら切り刻めるさ。

そして、朝焼けの靄にドレスコードを忘れた紅葉が彷徨う。ウィンカーのでない車が羅列した螺旋階段、転がるコンバース、国道702号線にへばりついただけの静脈血と網膜。ほら、また林檎とブランの錯乱死体の色彩を知らんぷりして、貴女はアップルパイの午前を穏やかに迎えようとしている。