haiirosan's diary

散文とか

水鏡に映る蜻蛉と黒揚羽

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かつて「空白であった」はずの棺桶に落とされた、造花の花束。
這い出る黒揚羽、逢魔の夕光に照らされても尚、彼は畳の上で冷気を湛えたまま。
悲劇の始まりはあまりにも唐突だ
悲劇の終わりはあまりにも鮮やかで
私の眼に刻まれた、ワタシの靴が赤く染まって、プラットフォームに転がる夢或いは――
微睡みの炎に浸る港湾とウォッカ、煉瓦イロの地面に刻まれたチョーク痕
鳴らない目覚まし時計
警報すら諦観した朝に
――遠く、遠くの国で目の当たりにした、僧侶が焼身自殺を図る映像。
私は机に突っ伏したまま、吊革で縊死を図ろうと躍起になっていた。
私の名前がどちらか忘れてしまったことを、
死は救うことが
死は、
翠雨の傍観、秋の犠牲者
……葬列、水鏡に映る蜻蛉は、終幕の季節に幽かな旋律を奏でていた。
午後の吐息をなぞるように
冬の呼吸を切りつけるように
足音も無く忍び寄る夕刻と錆びた鎌
針のない時計、歪む茜日、凍傷
――私の首から滴る血、あなたの咽から零れる血は鏡を崩し、世界は青を喪って静かに笑う。