haiirosan's diary

散文とか

溺れる魚の黄泉路

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返り血の雨が渇ききった砂漠を彩る。
子供の国、届かない磔、釘の造花。
破傷風フォークダンスを踊れば、幼児の切りたての首でキャッチボールを繰り返す父子に警告するのは、いつも死んだ眼をした私生児だと。
そうやって永遠の笑いが止まないうちに、存在しない広場に虚ろな人影が集まってきた気がした。
爽やかな遺体を、限りなく沈痛なシャボン玉が抱擁する。刹那のビードロは少女の呼吸すら忘れて。
溺れる魚の黄泉路を漂う遊覧船に零した、一匙の祈りと撒き餌を踏み潰したのは、紛れもなく白衣たちだったから。
無言の水面に映る白磁の左手、小さな無垢の牙が、その肌にそっと忍び寄る。
白衣の屋上で揺れるのはいつも、叫びに浸された静脈血であったことをささやかな遺体は思いだすのだろうか?
否定も肯定も忘れた風が沙羅沙螺と吹き荒ぶ
「海の匂いは変死体の血の匂いだ」
マネキンに溺れた火葬場でそう嘯く君は、未だに遊覧船に穴を空けることを躊躇ったまま――
――きみはなまえをなくして
炭化する影と化す。
夕暮れはいつも終わりを刻みつければ、
目蓋に捻じ込む悲嘆或いは砂の様な熱波。
此処は砂漠の果ての孤独、私の左手には汗ばむカナビス、右手には私のもの(ではない)血塗れのナイフが佇んで――
死体すらない血溜まりが渇いてゆく景色、それすらもやがて流砂が掻き消してしまう。