haiirosan's diary

散文とか

「四四番目の空白」と蒼穹の破傷風

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暗濘の彼方、
流砂のような火炎が、全てを焼き尽くしていた。
傍観或いは感傷
(それら)に浸る誰もが
既に火葬場の暗闇深くに沈められ__
刹那に映る炭化した彼らは
暗幕の小さな悲劇にすらなれなかった。
視えない鬼が手招きする黄泉比良坂。
言葉も無く
表情も無く
醜き亡骸の啜り泣く声だけが反響して……
微睡み、溺れゆく私の左手を摑むのは
「わたし」だった。
「わたし」の名前
「    」
「     」の悲劇的な絵筆
削ぎ落とした「彼」の右耳は、蒼穹の陰画に救済措置の無い(春)をもたらしてしまう。
左手、
最期の銃声すら、
小麦色の柔らかさに吸い込まれて、
冷たくなってゆく体を
季節が置き去りにしたから。
1998年、或る群青たちのフィルム
__永遠の欠席を保持してしまった太陽は
「四四番目の空白」に位置づけられた。
光、清廉さを喪った(青たち)は
灰色のローブを纏い、暗き雨音と踊り続けている。
綿飴すら氷結する烈夏、
街は、
人々は名前すら喪い、
視えない数値に血と汗を零してゆく。
――やがて、全てが納棺され、氷砂糖の雨と柔らかな陽光が、空白の大地に降りそそいだ。
紅葉の流沙が破傷風をもたらし
蝉は再び警笛を吹き鳴らす。
凍死と熱病が混濁する煉獄の絵画に、
彼らは醜きパノラマを刻み込もうとした。
__今、蠢くのは「無」に浸された
あまりにも潔癖なモノクロだけ――