haiirosan's diary

散文とか

水鏡に暴かれた終幕

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細波の夕暮れに世界が溺れて、
游泳をやむことなき「黄昏の名」が
誰にも聞こえない凱歌を歌う――
――瞬く間に夜が忍び寄り
刹那に過ぎゆくその旋律は
いつまでも暗渠の波間を漂っていた。
……影絵揺らいで
冬を、心を、(わたし)を殺して……?

鮮やかなる死、冷熱の殺意
涼やかなる桃色の境界線
君ならざる者跋扈して混迷
不穏な指先は瞬く間に冷たく__紅く__
匿名の投身が魅せた
影絵からは出血も無く揺らぐままに終幕。
暗幕に放たれた炎は、
終わらぬ夕暮れを描きつづける
奇数の犠牲者
これは、ゆめのなかだから
眼前の深紅溢れるエレベーター、
「存在しないはずの10階」に向かう揺らぎと
「誰か」の鼓動
降り立つ先は__
水鏡に暴かれた罪と流血、
フラットに捧ぐ不協和音
水彩画に憑かれてしまった「 」の左手からのものだと、無垢なる秋は高らかに叫んだ。
正体不明のままに糾弾された「 」
静かな光さした場所
――此処には幽かなアトリエの悲哀と呼吸だけが、柔らかに漂っている。