haiirosan's diary

散文とか

溶けない障子模様と琴弦

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カーブミラーに紫鏡描く夕刻
禍々しく剃刀滲む藍空
あなたは畏怖に浸された眼をしている
「どうして?」
――背後に迫る死を纏った足音も、
群青の肌から滴る静脈血すらも、
やがて訪れる深い宵闇が洗い流してしまうのに――
水鏡に映る平行世界は
夢現にも増して鮮明なる翠緑が遊泳している
硝子溶けたままの水水に
酔のままに泳ぐ奇形の魚と水死体は
いつまでも綺麗だったから
終着無き水槽を這い回るのは
轢断された幽体の金魚だった
張り巡らされた溶けない障子模様と琴弦
流れだす動脈血すら
不鮮明であった濾過水を彩り
無機質な光は永延と
罪の水に浸された世界を暴く
躑躅零れた花びらと蜜に触れれば
私であったはずのレプリカは
脆くもジェンガの一端として
真夜中のような深淵に堕ちていった
擦り剥けた膝に群がる蜜蜂のような亡霊たち
痙攣、動悸すらも
無感情のままに意識だけが遠のく……
そう、あの日の夜明けは
剃刀が刻む浴室みたいだと
水彩画に沈む「知らない君」が嘯く
死んだマンションの暗い暗い影狭間の輪廻に
安寧を求むるは後悔なのか?
いつか、明滅する燈籠の青い記憶すら、
闇を湛えた紅に轢き潰されてしまったのに――