haiirosan's diary

散文とか

千里眼散る剃刀花の都市

震える指先の爪は淡く。彼方の蒼すら揺らぎに揺らいで剥いだ雲の質感はあまりに糖度と背徳に充ちた、あの誕生日と井戸の底に眠る砂嵐の画面と映り得ない異質も、あまりにも平坦な時間と街の冷たい構成音よりは救いがあるはずさ。
アンカラー滲む都市は静寂に浸されて、影絵のように揺らぐ悲劇と茜色は柔らかな隠匿を齎す。
化学式の配列は寸分の狂いもなく、貴女の呼吸を、煌めく炎を奪い去ってゆくから――
千里眼散る剃刀花の傍ら、折れた骨、桃肌の痕跡、アンダルシアの夢ゆらめいて――壊れたモノクロームの祈りはやがてマーブルカラーに冒されて、沈黙に溺れてしまう。
青一号溶けゆく鋼鉄の暁、眩暈と酩酊に鈍重さを増した機械の兵隊は、不可視のナイフを世界の頸動脈にさし向ける。
流れる血すら存在しないスクリーンの深層、彼方の街の砲声が夢幻のように遠のいてゆく。

奇数の首と春うらら


鬱金色惑いし臓器へべけれて
死んだ眼のまま何処へゆくやら
――混濁した春うらら、葉桜に揺らぐ蝶々を誤認した色彩、幽かに香る現の憂鬱――退屈だらけの夢に圧し切られた奇数の首。
……疵口から零れた敗血が、再び死の誘惑と刹那の春を描きだす。
無垢の斬首、椿頸墜ちて、葉桜は再び春を取り戻す。救済なき黒を湛えた血に染まる、暗い暗い茜色を纏って。
轢断されたスクリーン、階層の螺旋階段瓦解して、水中は水なき酸素に浸る。尾を引く黄昏時……死んだ眼のまま漂う春は焦熱すら渇ききってゆく――
正体不明の紅梅イロ、自らの名を求めて曇天の世界を彷徨う。
その花肌を少しずつ血と季節で染められながら。

紫のアレゴリー、併走する平行世界

鬼灯火を放つ白蓮の夏日、丑の皿
円卓上に炭化した君の夢幻とネオンライト、
ワルツを踊るのは草臥れたマルボロと渇ききったスコッチだけだから、色夜はまた訪れる。
葬礼の熱病散りぬる夕に
むらさきの刃先揺らいで或る。
何者かなにものでもなく切り裂いて視えたのは、終焉なき黄昏色の炎……
描かれてしまった水鏡の水彩画、
幽かに揺らぐ色彩と呼吸は、意図無く忍び寄る暗雲と冷色の霧雨によって、いつの間にか殺されてしまった。
紫のアレゴリー
併走する平行世界
光無きハイウェイの真相――
少女が「青」を求めて彷徨う。砂漠のような車道には、もう清廉も生者もなく。
唯、夢みる機械と鋼鉄の夕刻が輪廻を刻んでいる。

コンクリート・アイスクリーム・ベンチ

「昨日公園」という名のベンチに映る鏡をかがみのかみと紙を髪を結わえるままに、波乱なき千草はにがよもぎの悲劇を映すかのように枯れていった。

 あまりにも神が余剰な生産ラインが流される、ちゃぶ台がひっくり返ったままの居間に陣取るTVスクリーン。アイスクリームと風船の吸い過ぎで昏倒したママの、その背景に描かれたのは、致死量であるはずの娘と息子の敗血であることに、どうして電線に停泊する鴉たちは気がつかなかったのか?

 そう、葬を繰り返すオーケストラが仕掛けた銃声のファンファーレ。公園が最早バルカン半島の火薬庫のような狂態を示すことを、円卓上の中華料理は油と凝固したグルエースの痕跡を提示し始めていた。

 確かに桜はいつか散ってゆくし、八重桜のスカートもやがては色褪せてゆく。貴女が轢断した公園の空席もきっと、代替えのマネキンが剥きだしの白骨を俯瞰させるかの如く、「この世界のヴァニラの白は偽物だ!」と泣き喚きながら、アイスクリームパーラーを襲撃するあの町の住人の純粋な行動を模範すべきだと思う。

「コーンカップの狭間に存在する宇宙を、そろそろ手に入れなければね」

――深夜二時のベンチをギロチン替わりに用いた、赤マントがそう嘯く。

火の車と化した「   」パーラーの焼け跡を想像する度に、30円のチョコレートは壊れかけた笑いを浮かべるのが、なぜかフレーバー選択を十秒以内で求められる31歳のアイスクリーム・ショップ=人生を選択する時間――少なくとも長考できるような時間は私達には存在していないと訴えかけているような気すらした。

 暗喩に用いる薬物、渇いた笑いとコンクリート・ジャングル、そう、錆びゆくベンチの色すら、9回二死を諦めないたった一人の生存者すら、アスファルトではなくコンクリートのような無慈悲さに打擲されてしまうこの現実に、誰が砂漠のような氷菓の幻覚を夢見ることができるのだろうか?

PHASE 1 CLINICAL TRIALS

f:id:haiirosan:20210324083703j:plain

薙刀の如き光刺す秋の血小板
彼らは自ら傷つき 自ら血を流す
踊る影絵
欠損すら忘れ
血を纏う黒焦げのワルツ
幽かに遺る水緑の清廉も
やがて茜の牢獄に引きずり込まれて
葡萄棚垂れ落ちるシャーベットは
匿名の心肺を柴に染めて――
夏の終焉、麦わら帽子を喪った人々により
やがて放たれる獄炎にすら
柔らかで毒毒しきイロを懐かせるから――
照光曝す白日の流血
暗緑に隠れし殺人者と黒猫はいつも
花蜜滴る轢断死体を狙っている
8mmを携えた愚者
架空のロザリオ
  神を逆さの絞首に処した時
彼らは淫らな手指を露わにする
蝙蝠熔ける夕靄に紫深く揺らいで
――トレモロ――少女の赤い靴の紐(だけ)が
夕茜に染まる宙を舞い踊る
剥がれたマニキュアと黄昏
行方不明の隠れんぼの記憶
或いは今もずっと――

色素色づく胡蝶の夢

f:id:haiirosan:20220220164358j:plain
楽園の黄昏は幽かな波色を湛えて――
かつての「私」の視界に
穏やかな終焉のフィルムを円転させた
無表情な境界線
黒衣の鉄格子にゆらめく焔の色彩は
いつまでも艶やかさを抱いて……
無回転の夕陽、恒久なるノスタルジア
影絵が光を飲みこみ
夕刻の針は鋭さを増してゆく
刹那煌めく黄昏は、炭化した靴音を粒細して
貴女のドレスの痕跡すら
――記憶のフィルムにすら
黒衣を纏わせてしまう
色素色づく胡蝶の夢
毒突く紫式部溶け往く摸造の羽々
境界線の如き障子
垣間見の脇差しは赤ならぬ赫を刻み
柴はその神経網をより鮮明に曝けだす
古語を解体した源氏物語
古語を語る首脳会談
反語を躱す脳と鉛筆
偶数に吹き消す蝋燭と
終末の炎が交じり合って……
水槽の脳 琥珀に揺さぶられて
空白の揺りかごはいつも
押し花と変死の香りに浸されている
7月の氷がロジックのように崩れて
最期に遺されたのは
片っぽのコンバースだった

救済なき砂塵と因果律

f:id:haiirosan:20220227180247j:plain
終秋のかさぶた曝されて
季節を愛撫する蝉時雨は不協和音を奏でる
茜と鬱金の明度に眼をやられ
盲目の憂鬱が色を亡くして彷徨っていた――
燃えあがる
倫理の造花
色めいて
煙る刹那に
瞳孔開く
第三次の末路は無限の廃墟と温もりなき遺体、彼方のサンスクリット
黄道――血が染みた……
砂塵の鼓動に抱かれゆく大蛇、
毒牙の泉に松葉杖が飾られ、
形骸化した王は
その玉座から動くことは無かった――
夕暮に五線譜融解して
旋律なきファンファーレが
悲鳴と抱擁を交わす4の廃団 地 
拐かされし子どもたちの遊戯は
ピエロの笑みと
ダガーナイフが告げる深紅の終幕――
水中の天鵞絨 琥珀に沈む
乾きゆく沙漠の祈りのような戦火
熱病ト夢
熱病ト夢魔
熱病ト夢中夢
……救済無き因果律が崩壊していけば
きっとこの病も奇数と共に
不可視の砂塵と供に消えてゆくから