haiirosan's diary

散文とか

不可視の水槽に沈む10階

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夕刻だけが世界の終わりをそっと告げた。
終わらない夢、始まらない暁、傍観者はいつも被害者だと、海辺の少女が囁く。
海岸線を失踪するナイフの傷痕、彼方で揺れる爆炎と断末魔。
翡翠色の貝殻が茜色に砕け散った刹那、裸足のままでは誰も――
かくれんぼに結末は無く、缶蹴りの彼方に消えた20cmの赤い靴は腐乱しない死体のまま、
誰にも__
記憶を嘲笑う凍結したナイフの照光、3月の悲痛は砂場に溶けた鼈甲飴と風船、救済措置の無い夕闇に無慈悲なマスクがワルツを躍る。
スクリーンに映る刹那の生存者は業火に包まれた女だった。黒衣を焦がした47の焼死体、事故を声高らかに宣言する人々、焦土と化した逆さ十字架の館に隠れる、最期の少女の微笑に誰も気づくこと無く。
擦れ違いざま、心臓に匿名のナイフを突き立てられた瞬間、春眠の太陽が幽かに揺らいだ。蒼は暗幕へと変換され、足音は遠ざかるファンファーレと嘲笑を鼓舞する。
アスファルトの冷たさ、群れるユニフォーム
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鉄条網の彼方、静脈血に浸した鉄骨材が誰が為に死亡記事を。
不可視の水槽に沈む10階は平行世界へと誘う血塗れの白い手に引かれて――園児の骸が揺れる海中、落とされたマッチが放つ炎は刹那と消えて、歩道に追突する無慈悲な救急車が、世界の終わりと=で繋がることを誰も認めようとはしない。