haiirosan's diary

散文とか

1989年、生まれ落ちて死にゆくのは、

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手を伸ばせば、その先にあるのはいつも鉄条網だった。滲む血の行方すら渇ききって、いつか降る雨に救いを求めても、穏やかに浸食する砂塵の音色だけが永延と鳴り響いて。

錆びた剃刀空

1989年、茹だるような快晴と青雲の或る日、一匙のバニラが世界に零され、全ての怒りと死の痛みを忘却してしまった。腐乱するだけの甘い死体と調香師、国旗の墓標に群がる犬猫芝居に終わりはなく。
ほら、また一匙の銃声が誰かのこめかみを柔らかに、

獄炎が酔翠の廻間を焼き尽くした。レンズ越しの世界はずっと傾いたままで、白骨死体倒れ臥すアスファルトの海で游泳するスチール缶も、怒りに砕け散ったウィスキーボトルの徘徊を傍観するのだろうか?
青の蝋燭潰えて、砂浜のシャーベットは着色されてゆく。
燭台のビルディングはあの日崩れて、そこには悲劇に浸された波が全ての疑心暗鬼と色彩を溺れさせたはずなのに。
――不可解な程に真冬の海岸線とビーチパラソルは蜃気楼を紡ぎ、記憶の水死体は砂漠の巡礼者となって、刹那を彷徨いつづける。