自己の残像引き裂かれ、柔らかな闇の抱擁は不穏と不安に浸されてしまった。
忍び足の夕刻茜は、その色味を深めて――
――私の精神に匕首を刺し入れる。
剃刀刃切り開く春色めいて
まひるの君は壊死を夢見る
いつか、スクランブル交差点の雨は紅く
青ざめたアスファルトは
架空の死体を愛撫することに憑かれていた。
可憐なハンカチだけが、いつまでも行方不明者として、名もなき街を彷徨って、
無機質なはずの夜……紋白蝶が忘却した色。
標本溶けゆく空は濃淡を狂わせ、永遠の4を指すロンギヌスの槍は幽かな錆を抱いている。
羽根のないヘッセの最終頁、
とけない紙、慟哭の年号
氷雨の記憶すら焰に隠されてしまう。