haiirosan's diary

散文とか

線香花火の水死体

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消えゆく硝煙反応にクリームソーダほくそ笑み、密やかな街頭スクリーンに踊るシルエットは、唯々消えゆく為の淑やかさだった。
遠い町、遠く、夢、幽かにカッターナイフ揺れて。
オレンジジュースの苦々しい笑みと、水鏡に揺れるゼリーに甘味料を混入し忘れたと嘆く君は、秋雨の虚ろさの群れの中で、たった独りパラソルに炎を灯して笑っていた。
色彩の懲役刑と示談の灰色、私のコンタクトレンズが行方不明になった時、燃えあがる傘が花火のように輝いて……
白昼、八月の蜃気楼に壊れた。
うたた寝の死と沈黙に揺られて、彼女の心は終点へと到達してしまう。
摂氏に汗ばむだけの氷塊、線香花火の水死体横たわるアスファルトに、まひるのそらは永延と残響を奏でる。

「まだ水曜日か」

誰かがそう嘯いた教会は既に夕炎に呑み込まれ、カッターナイフで切り裂くだけの血管の艶やかさと、フロントガラス砕け散った車窓がいつまでも無表情のまま。
――足音それとも呼吸。
彼らのマスクは無効の日に放置され、気づけば此処には誰もいなかった。

1989年、生まれ落ちて死にゆくのは、

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手を伸ばせば、その先にあるのはいつも鉄条網だった。滲む血の行方すら渇ききって、いつか降る雨に救いを求めても、穏やかに浸食する砂塵の音色だけが永延と鳴り響いて。

錆びた剃刀空

1989年、茹だるような快晴と青雲の或る日、一匙のバニラが世界に零され、全ての怒りと死の痛みを忘却してしまった。腐乱するだけの甘い死体と調香師、国旗の墓標に群がる犬猫芝居に終わりはなく。
ほら、また一匙の銃声が誰かのこめかみを柔らかに、

獄炎が酔翠の廻間を焼き尽くした。レンズ越しの世界はずっと傾いたままで、白骨死体倒れ臥すアスファルトの海で游泳するスチール缶も、怒りに砕け散ったウィスキーボトルの徘徊を傍観するのだろうか?
青の蝋燭潰えて、砂浜のシャーベットは着色されてゆく。
燭台のビルディングはあの日崩れて、そこには悲劇に浸された波が全ての疑心暗鬼と色彩を溺れさせたはずなのに。
――不可解な程に真冬の海岸線とビーチパラソルは蜃気楼を紡ぎ、記憶の水死体は砂漠の巡礼者となって、刹那を彷徨いつづける。

最期に彩られたラストシーン

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誰かの絵画が磔にされていた。
赤い血を吐きだす雪景色はもう夏を忘れたまま、最期のグラスワインを喪失してしまう。
夢現な物語は、渇ききったフィルターは、いつも心に清潔なバタフライ・ナイフを突き刺す。
もう零す血すら無くても、深々と。

浮き沈みを繰り返す死体の蒼白さに、ストリップ劇場は十字架の清廉さを保つべくコンタクトレンズの手を離さずにいた。けれど、IE上は鍵盤の交通事故を逆さまの首吊りとハンバーガーの轢死体はラストシーンで歯車が何故止まったのかを××はどう解釈するのか?

何故か、見知らぬ彼或いは彼女達の殺意は密林に隠れるが如く。机上のシェパーズパイと空論を轢断死体に変換するのは紛れもなく錆びたアイスピックだったから、私は血痕を一滴たりともカーペットに零してはならない気がした。
――音を立てれば死が待っている。終わりは深刻な恐怖の始まりでしかなかった。
――死はエレベーターと夕景の狭間で、揺蕩いながら手招きを繰り返す。
(存在しないはずの11階)
不意に音の途絶えた外界、暗闇に溺死した幹線道路、彼らがその先を求めて踏み出した一歩に、ひどく無機質な白い手が絡みつく。

水鏡に映る蜻蛉と黒揚羽

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かつて「空白であった」はずの棺桶に落とされた、造花の花束。
這い出る黒揚羽、逢魔の夕光に照らされても尚、彼は畳の上で冷気を湛えたまま。
悲劇の始まりはあまりにも唐突だ
悲劇の終わりはあまりにも鮮やかで
私の眼に刻まれた、ワタシの靴が赤く染まって、プラットフォームに転がる夢或いは――
微睡みの炎に浸る港湾とウォッカ、煉瓦イロの地面に刻まれたチョーク痕
鳴らない目覚まし時計
警報すら諦観した朝に
――遠く、遠くの国で目の当たりにした、僧侶が焼身自殺を図る映像。
私は机に突っ伏したまま、吊革で縊死を図ろうと躍起になっていた。
私の名前がどちらか忘れてしまったことを、
死は救うことが
死は、
翠雨の傍観、秋の犠牲者
……葬列、水鏡に映る蜻蛉は、終幕の季節に幽かな旋律を奏でていた。
午後の吐息をなぞるように
冬の呼吸を切りつけるように
足音も無く忍び寄る夕刻と錆びた鎌
針のない時計、歪む茜日、凍傷
――私の首から滴る血、あなたの咽から零れる血は鏡を崩し、世界は青を喪って静かに笑う。

円環構造の俳句と疑問符

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硝子細工の夕暮れは蒼の操り人形だ
教会のステンドグラスが朗らかに嘯くけれど
彼女の色彩は未だに死んだままだから――
空白のチケット
虚ろな番号を君は言い当てることが?
4730821569
ハーシュノイズ
モノクロ・ブラウン管越しに視た観覧席には、たしかに1人だけ、血に染まる死者が黒い染みを纏わりつかせながら佇んでいた。
誰も気づかないまま
誰もが笑いこけたまま
誰かが遺体のまま
コマーシャルの挟間
カメラの虚構と現実が交わる刹那
死者は臓器と真実を零し
生者は赤と黒を受容する
秋色が忍び寄る頃
密かに埋めた死体と貝殻は海色に浄化された。
記憶とカッターナイフ
裸足から流れる血
鴎が叫ぶ死の号砲
有刺鉄線のような木々の牢獄に囚われて
渇ききったまま永遠に彷徨うのは――
金木犀散りゆく暁、傘が一つ、
また一つと倒れゆく
「終わりも始まりもない?」
火を放てば燃えあがる序章
二つの終幕が降りない時
三つ子の母のドレスは紅いまま
カウントダウンが死を刻めば
秋の牢獄は終身刑を許さない
境界線上、散る鴉、白昼夢は現
円環構造の俳句に疑問符をそっと添えれば
彼らは教壇から姿を消す
踊らない言葉或いは、
砂塵に傷ついた筆が描くのは
いつも切り落とした左耳だった。

3番目の椅子とブランケットを捜さないと、

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少女の戦場を夕陽だけが照らす
滴る血と骨が凱歌を嘯き
錆びた手錠が自らを自らでいる為に自ずから偶数であろうとする
断線は幸福である
断絶は幸福である
断崖から身を投げる君はいつも、
全てが断ち切れた時
幽かな光と止血剤がそっと射し込む

心臓と敗血を零しながら歩く硝子上には、たしかに蜜柑色の夕刻が忍び寄っていた。
判読不能の黙示録、背後のスカート
暗い誰かの右手が私の口を塞いだ刹那、私は私のカッターナイフで私を切り裂けば、誰かの右手は柔らかに離れていくと、そう思った。

眠りを忘れた蜘蛛は26階のプールを遊泳する、救う為の糸は無く、殺す為の浮輪も無く。唯、あまりにも敷きつめられた酸素が水死体を肥大化させ、漂う紫煙が終わりの花火に点火する瞬間を視ていただけ。

 

車輪の下、歯車の幻覚、内臓の共喰い、

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欠席に浸された教室、ノートに突き立てられたナイフからは幽かに血が滲み、揺らめく影が握り締めた鉛筆は窒息死として処理された。
「記憶」
記憶は少しずつ薄れて、暗い夢が現実に肉迫する。
網膜と鼓膜を揺らす影のトレモロ
「バニラのドレスは脾臓を動脈血を奪われたから」そう何処かに隠されし首が囁いた 。
蜘蛛の糸を求めて群がる鴉は電線の罠によって二重の死を抱く。
暗い青、投身他殺、洗濯機から流れる隠された(はず)の幼き血
虹彩異色に染まる路上、渡る影は例外なく轢死体へと昇華される。
車輪の下、歯車の幻覚、内臓の共喰い、レインコートとナイフ
0.01を切れば、開いた瞳孔に映る真実すら、どうでもよくなるから。
雨戸からそっと忍び寄る蒼白の手、口を塞がれた彼女が最期に見た夕日は、傍観の紅色を湛えたまま、ずっと __