haiirosan's diary

散文とか

溶けない障子模様と琴弦

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カーブミラーに紫鏡描く夕刻
禍々しく剃刀滲む藍空
あなたは畏怖に浸された眼をしている
「どうして?」
――背後に迫る死を纏った足音も、
群青の肌から滴る静脈血すらも、
やがて訪れる深い宵闇が洗い流してしまうのに――
水鏡に映る平行世界は
夢現にも増して鮮明なる翠緑が遊泳している
硝子溶けたままの水水に
酔のままに泳ぐ奇形の魚と水死体は
いつまでも綺麗だったから
終着無き水槽を這い回るのは
轢断された幽体の金魚だった
張り巡らされた溶けない障子模様と琴弦
流れだす動脈血すら
不鮮明であった濾過水を彩り
無機質な光は永延と
罪の水に浸された世界を暴く
躑躅零れた花びらと蜜に触れれば
私であったはずのレプリカは
脆くもジェンガの一端として
真夜中のような深淵に堕ちていった
擦り剥けた膝に群がる蜜蜂のような亡霊たち
痙攣、動悸すらも
無感情のままに意識だけが遠のく……
そう、あの日の夜明けは
剃刀が刻む浴室みたいだと
水彩画に沈む「知らない君」が嘯く
死んだマンションの暗い暗い影狭間の輪廻に
安寧を求むるは後悔なのか?
いつか、明滅する燈籠の青い記憶すら、
闇を湛えた紅に轢き潰されてしまったのに――

百日紅四二八七

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百日紅のような夢魔が流す血は影色の境界線と
フェンス絡まるサイレンの悲鳴
百日紅誤読重ね薄ぼんやりした視界と
群青のスクリーン――
わたしの血と罪に染まる手すら、
世界を包む、
あまりにも深き断絶に色を喪い、
意味すら失い……
水色の陰翳を白磁の紅色が浮游する。
決して傷むことのない傷に、絆創膏の救命艇が足掻くままに、刹那の中は燃える朝焼けのベッドに眠るふりをした眠れないジルの瞳にいつまでも焦がれていた記憶すら、やがて柔らかに薄れて。
痛み、傷、出血、この先が致命傷にならない傷だとしたら、私はもう――
そして、三番街の幽霊の子どもたちの見えない出血は、無邪気なままに瞬く間に止まり
4月の夢幻は包帯揺らめく春風と共に消えていった。
藍色

四二八七開く
油絵に齎す炎熱も無く
揺らぐさざ波攫う四五九一五六四
うつろなわたしがゆうきてきにしんだとうじょうせんえんせんがいけんがいのよみじでゆれる「彼岸花は」
まぎれもなくうつくしくあなたのようなわたしのれいあんしつのはだをすこしばかりあかくそめたんだ

明晰夢と茜時の表象

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崩れかけた境界線の障子の向こう

紫陽花の炎が、亡骸を抱擁し続ける畳を柔らかに葬る

幽かな雨音 通りすがる揚羽蝶に彩られて

――色褪せゆく刹那すら、清廉なる青の熱病を携えたままだった

造花の彼岸花香りたつ雨暁

薬指の標本に収斂されし紫の蠱毒

匿名の指輪に色づけをする

微かな足音

鈍色の刃先が水音に浸された時

此処には血を流す君と

左手を血で洗う貴女しかいないから――

明晰夢と茜時

数列崩壊と配列配電盤乱れた心肺

やがて私の左耳から零れる耳鳴りは、表象のシーツを打擲して――

赤蟻と紫鴉の群れ、百年戦争がもたらす夕暮れのイロは

どちらが正解だったのだろうか?

名も無き怪物が夕闇の無人駅を永延と彷徨っていた

渇ききった瞳と

唇 アスピリン

澄みきったアルコールが惑わす罠に

光無きあやかしの眼差しは私の虚ろさに似ていて……

――わたしは三面鏡に映る(誰か)を切り裂くことを選び取ってしまった

玩具色 夕刻 針時計刻む憂鬱なれば

此処には心なき生存者がいるはずだと__

白紙に希望なし、罪なき缶ピースが吐露する罰

青に凌辱された灰炎が

あの日の刹那を彩っていたんだ

「私」と黄昏と世界の終わりの音

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https://youtu.be/y4ebJNj9JxI

夕焼け刻むピアノ線 誰もいない教室の奇数
冷めゆく熱病 鴉散りゆく刹那
「旋律なきサイレン」
無表情な悲鳴を奏で
暗い影を世界にそっと導く

イロ__色を喪いゆく葬列が
遺失物と死亡記事を探し回る
――溶けない茜色 焼け落ちた世界に独り
空白、血と花束、無音のエンドロール
消えない茜色 からっぽの世界に独り
空白、血と花束、無音のエンドロール

紅さすカーテン越しのお終い
むらさきのゆめ 色鮮やかに
消えゆく明晰夢 暁のステンドグラス
硝子砕けた刹那
「旋律なきサイレン」
無表情な悲鳴を奏で
暗い影を世界にそっと導く

切り裂かれた「赤い靴と首の行方」
空白、血と花束、無言のエンドロール
引き裂かれた「青い服と君の行方」
空白、血と花束、無言のエンドロール

夕暮のゼリービーンズ溶けて、

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刎ねる首鞠蹴れば白粉朱くなりにけり
転ぶる排骨唐傘ちぎれ雲淡く
花びら濡るる身毒丸
唇刺すは麻痺セリ長月
――映し鏡映さぬ虚ろな鋼鉄
陰鬱な因果律に鼓動を求めても
此処には何も無いことを知れば
ブラウン管はノスタルジアではなく
悲劇の象徴だと、
そう、モノクロの着色料が嘯く
白黒ゼリービーンズ溶けた葬夏
ざらめ糖散りゆく水面揺れて
彼方の灯火は私にとっての絶望なのか
――或いは希望であるのか
分からなくなってしまった
かつて、甘美であったはずの夢現すら
酔毒に浸されて
赤い手が一つ





硝子窓にへばりついてゆく
朱色のマッチ擦る12月に太陽はドレスを纏い
刹那の死を選び取った
彼方 儚く笑う月は
欠損と美を携えて
二度とは灯さぬ夕刻のラストシーンの記憶を
柔らかに噛みしめている

茫葉に隠されし百日紅の気管支

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紅葉のフィルムに逆行する溺死が浮游する。

血に濡れても尚、伸ばす手とサイレンの唸り

白衣が爪弾く猟銃のざらつき

救護されるべき血小板に明日がみえない

細波のような遠き雨音が、心拍を拐かして__

「此処は藍色と宵色を見失った街」

暗渠明滅、蒼白ノ空白ト記憶

……不可視の鬼が隠れ潜み、可視の呪詛が充血するままに伸びた髪。

貴女の最期の左手が、汚れなき水を求めていたことすら、きっと忘れてしまうのに――

彼岸花の素毒に触れ、あの揚羽たちが私を嘲笑する

光渦巻くままに嘯く羽根は鬱金イロに脱皮して

あまりにも陰惨なる秋空を眩き、水彩画へと塗りかえる。

――いつか飛び立つ夢すら、気管支の絶望と猜疑心が

また一つ、何処かの胡蝶の夢を奪い去って――

車輪の下と平行世界

暗転した水鏡に映る轢死体の真相

止まない渇き、

百日紅の真相、

パレットに滲みる終わりの狼煙、

翠緑に抱かれた宵枕は韻律と旋律を打擲して

車輪の下のヘッセは少年時代をアスピリンの影に隠す

―― いつも放棄されるのは、言葉なき雨後のマニキュアなの?

剥がれそうな爪色と すれ違う夕景と影の街に

逆さまの蝶は杳として行方不明のまま

この空を泳ぐ羽根は鬱金色に溶けてしまったから、

誰もが俯いたまま

錆びた簪に滲みゆく己の血に気づくこともなく……。

海辺のような暁、痛絶

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累積せり警告を業炎に投げ入れ
波間のような沈黙に浸れば
私と「わたし」の縊死体が
幸福そうに揺れていた
水面に浮かぶ左手が掴む救命の偽装
偽りに偽りを重ねた手錠
錆びついたうつつ、時計の針折れて……
(夕暮れ夢)は 
カーテンから射し込むナイフが切り裂いて
蝕まれた錠剤が 忘れかけていた偏頭痛を齎す
網膜に浮游する春雷の幻惑
網膜に降る雨に 誰も傘を差しだすことは無く
――
桜花深層、蠢く酩酊の蛇切り裂かれ__
此処には終わりなき憂春が
通続音として鳴り止まぬ……
削がれた耳
剥がれた目 
裸足の薙刀破傷風が添えられれば
地蔵の側頭葉の待ち針は
いつまでも鈍色の光を放ったままだ
透明が私の体内を浄化して
深遠なる蒼の心肺に
幽かなサイレンを鳴らす
数式に形成された、海辺のような暁
光亡き清廉さと淡い囀りに
淘汰される死すら痛みを忘れて――