haiirosan's diary

散文とか

千草色の平行世界

f:id:haiirosan:20200802185030j:plain

琥珀の季節を描くのは、最期の空中戦を求めて彷徨う巡礼者だった。
あまりにも酸素に充ちた群青色の海
息を止めて ライムミント掠めて――
――幽かな冷涼と共に
残酷な夏は記憶を喪ってしまう。
翠緑の平行世界に映る亡霊
跫音の無い少女は
自らが翳すダガーナイフに
刻まれた血の行方を忘れてしまった
車輪の下揚羽蝶を狂ったかのように捜す、老齢の小説家。彼の遺したダイイング・メッセージは雨と共に埋葬され__
千草色華やいで
(或る青い花)は自らの名を獲ることを許された
風化する水色と記憶、空白の花束
いつかの四月は湿度計を壊し
救済の無い熱病だけが
少女たちの足もとを、そっと焦がした。
影絵だけが抽象の季節を告げ
送電線の狂鳴は
誰かの縊死すら賛美してしまう
暗翳を染める、真っ赤な表紙
薄れ雪に漂う、紺碧の付箋
残り香のような淡い青すら、瞬く間に消えて__
やがて、最後の鴉が彼岸へと飛び立ってゆく。